バーネット:日本の労働環境に関する報道を読むと、マネジャーが部下を蔑ろにしたり、批判したりすることによって上司が管理職の権限を行使しているように感じます。つまり、ポジティブなフィードバックが効果的という考え方は日本では通用しないのかもしれません。
しかし、日本では93%の人が仕事へのエンゲージメント(熱意や情熱)が低いと答えています。これは自律性が低く、自分で考えることが推奨されないことと無関係ではないでしょう。もし従業員が自分の意見を聞いてもらえない、評価されない、ということで会社を辞めることが続けば、日本企業も変わるのではないでしょうか。
人々は今、もっと自分のライフスタイルに合った仕事をしたいと考えています。上司が負うような責任が嫌で昇進を断る人も増えています。日曜日の夜にメールが来たときにすぐに返さなくてはいけないような、上司のライフスタイルに憧れを持っていないのです。
――企業はそのことをしっかり認知しないといけないですね。
エヴァンス:労働力の年齢層が若くなり、若年層と女性の比率が高くなると、いわゆる「クリティカル・マス」になり、労働組合とは言わないまでも「そんな働き方はいやだ」という交渉ができる集団ができるようになるでしょう。賢明な企業は、変化が避けられないことを認識し、その変化を前向きに受け入れるのではないでしょうか。
バーネット:今後企業が生き残るには、最も賢い従業員が必要です。こうした優れた、最新のアイデアを持つ社員は、ハイブリッドな働き方ができ、自律性が担保され、人とつながることができ、さらに出世に伴ってスキルを習得する機会を提供してくれる企業にひかれるでしょう。これに適応できる企業は優秀な人材を獲得することができ、トップダウンで管理する企業はこうした会社と競争しなければならないのです。
――今回は本を書いている間にパンデミックがあり、「破壊的変化にどう対応するか」といった部分を追加したと聞いています。今でも変化に戸惑っている人は多いと思いますが、そんな人たちに伝えたいことはありますか。
エヴァンス:私たちはいま「旧世界」と「新世界」の間にある世界にいるので、人々は不安を感じています。新しい世界はまだ到来していないうえ、私たちはみんな古い世界に戻りたいと思っているのです。こうした中であなたが不安を感じているのなら「大丈夫だ」と伝えたい。今は不安定な時期なので、不安を感じるのは当たり前なのです。
しかし、変化は受け入れなければいけないし、受け入れたら後戻りはできない。そこで重要なのは好奇心を持つことです。好奇心を持って未来へ向かうのです。前を向いて好奇心に身を任せれば、不安は解消されていきます。
バーネット:デイヴが言ったように、嵐が起きているときにボートが揺れるのは、まったく普通のことです。それが楽しいこともあれば、本当に怖いこともある。こういう状況は日本のような精神疾患や心理的な不安についてオープンに語らない国にはチャレンジングですが、不安を感じるときは「あなたも不安なの?」と他の人に声をかけていいのです。なぜなら多くの人が1人で不安な思いを抱えているからです。実際、ワークショップでも多くの人が「行き詰まっているのは自分だけだと思った」と言う声は少なくありません。
不安を抱えている人は他にもたくさんいますし、手を伸ばしてほかに誰かいないか探すのはそんなに大変なことではない。この本で伝えたかったのは「1人にならないでほしい」ということです。
デザイナーは1人で仕事をすることはないのですが、それと同じようにあなたも友人を3人か4人集めて気になることをリストアップするのはどうでしょうか。もちろん仕事に関することでなくてもいい。人とつながることができれば、「不安なのは当たり前だ」と認めることができる。そして、デイヴが言うように好奇心を持って未来に身を投じてほしいと思います。
エヴァンス:私たちは講座や本を通してみなさんが「Worry to wonder(心配することから好奇心を持つことへのシフト)」の手助けをしたいと思っています。
日本には「メンツを保つ」という文化があると思いますが、これは今起こっていることを把握できるからこそ、相手の期待に応えられるという側面があると思います。しかし、今はそういう状況にないので、そこにこだわるのではなく、むしろ一緒に悩んでいきましょう。