「プロフェッショナル」と呼ばれている人たちに数多く取材するなかで、私は彼らにいくつもの共通項があることに気づきました。そのひとつが、若いときの苦労や努力を苦しいものだと思っていない、ということです。
起業家しかり、メダリストしかり、有名俳優しかり。突き抜けた結果を出している人ほど、陰ではとんでもない努力をしています。
当然ながら、人と同じことをして、そんな結果を出せるわけがありません。多少の才能があっても、人並み外れた努力をせずに成功できるほど世の中は甘くないのです。しかし、そんな血の滲むような努力すら、当人は大した努力と思っていませんでした。並大抵の苦労ではないのに、皆、涼しげな顔をして当時を振り返るのです。
しかし、そんなにストイックに自分を追い込み続けていては、さすがにどこかで息切れを起こしてしまうはず。そこでいろいろ聞いてみてわかったのが、彼らは自分を喜ばせることがとてもうまい、ということでした。
幸せのハードルが低いと、ちょっとしたことでも幸せに感じられます。そうやって気持ちを高められれば、次のモチベーションにつなげていくことができるわけです。
一方で、こんなことにも気づきました。彼らは世の中や人生の不条理さ、不合理さをしっかりと受け止めている、ということです。人生が思い通りにならないなんて、当たり前のこと。そもそも世の中は、不条理で不合理で不平等で理不尽で残酷なもの……。
この現実に気づいているからこそ、強くもなれるのです。 「そもそも人生は苦しい。生きていくのは大変だ」。これが前提になれば、苦しい現実を突きつけられても、「どうして自分ばかりこんなことに!?」とはならないのです。
20年以上にわたって芸能界で活躍している著名なタレントに取材したときのこと、長きにわたる活躍の秘訣を「実力1割、運9割」と語っていて驚いたことがあります。努力して実力を磨くのは当たり前。そのうえで、うまくいくかどうかは運が9割だったというのです。才能や実力だけではない。運が9割です。 何と残酷な話でしょうか。しかし、これが現実なのだと思います。
歴史小説から現代小説までベストセラーを次々に出している高名な作家に取材したとき、厳しい言葉をもらったことがあります。「作家になるまで苦労をされたのですね」という私の言葉に、彼は目を見開いて、反論されたのでした。
自分は苦労なんてしていない。本当の苦労というのは、人間を圧しつぶすほど強烈で、どんなに意志の強い人間もつぶしてしまう。作家になるまで苦労した、などという安易な物語をねつ造するのは、世の中をナメた考え方だ、と。
彼はこうも言っていました。若い人に言っておきたいのは、すぐに結果を求めようとしないことだ。今やっていることの結果が、明日出ることはない。そして、傷つくことを恐れないこと。そもそも人生は血まみれ、泥まみれ、汗まみれなのだ、と。