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「正解のないイノベーション」を生み出すのに必要なフィールド実験とは何か(写真:alexshyripa/PIXTA)
「イノベーションをいかに生み出すか」が、多くの日本企業が悩み続けるようになているが、日本企業は「正解のないイノベーション」が苦手だと、日米のビジネススクールで教鞭をとる牧兼充氏は指摘する。同氏の著書『科学的思考トレーニング 意思決定力が飛躍的にアップする25問』から、科学的実験によって「正解のないイノベーション」を生み出し、急成長した企業の事例を紹介する。

日本企業が苦手な「正解のないイノベーション」

イノベーションには、「正解のあるイノベーション」と「正解のないイノベーション」が存在します。

前者は、技術開発などにおいて、「性能を向上させれば確実にニーズがありそうだ」といったことが見えているもので、後者は、実際にやってみるまでそもそもニーズがあるのかさえまったく予測がつかないものを指します。

アメリカのシリコンバレーは、「正解のあるイノベーション」だけではなく、「正解のないイノベーション」も起こし続けることによって発展してきました。一方、日本企業は、「正解のあるイノベーション」は得意ですが、「正解のないイノベーション」は苦手です。

これが、シリコンバレーの企業と日本企業の競争力の差を生んでいます。今の日本企業により求められているのは「正解のないイノベーション」であることは、言うまでもありません。

「正解のないイノベーション」を生み出す組織は、「失敗」を前提として行動します。

しかし現状として、日本企業の多くはイノベーションを生み出すことを苦手としています。「成功」を前提として行動し、失敗から学習することができずにいることが大きな理由の1つです。

ますます複雑化する社会において、正解のないイノベーションを生み出すために、企業に求められているのは、「成功」をマネジメントすることではなく、「失敗」をマネジメントすることです。

失敗のマネジメントが組織文化として根付いている企業と言えば、ブッキング・ドットコムが挙げられます。同社のCPO(最高製品責任者)であるデイビッド・ビシュマンズはこう語っています。

「CEOの皆さんに助言するとしたら、こう言います。大規模なテストの肝は技術ではありません。文化的な問題であり、それを丸ごと受け入れる必要があります」(ステファン・トムク「ビジネス実験を重ねる文化が企業を成功に導く」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2020年6月号より)

実験でポジティブな結果が出る確率は1割

同社にとって実験は単なる戦術ではなく、もはや文化と呼べるほどに浸透し、組織のアイデンティティーを構成する一要素になっていることが窺えます。

実はブッキング・ドットコムで行われる実験のうち、ポジティブな結果が出る確率は、わずか10%。つまり残りの90%は失敗するのです。たくさん失敗しながらイノベーションを生み出し続ける同社は、「失敗」をマネジメントできる組織であると言えます。

ブッキング・ドットコムにおいて、失敗はお金を無駄にする過ちではなく、学びのチャンスと捉えられています。

実験の90%は失敗ですが、これは極めて健全な数字であり、失敗を前提に行動している証拠でもあります。仮に「うちの会社が行う実験は90%成功します」という企業があったら、それは科学的思考法が欠如した組織です。実験しなくてもわかることに無駄なお金と時間をかけているだけで、何の学びも得ることはできません。

大量の実験を毎日行えば、成功率は低くても、成功件数はかなりの数に上ります。そして、実験が文化として根づいていれば、社員は失敗する可能性に怯みません。だからブッキング・ドットコムは、旅行業界のイノベーション企業として、進化を続けているのです。