今年のYouTuberトレンドを代表するのは、テレビ番組のような形式の「番組型動画」の増加です。その皮切りとなったのが、2021年7月頃に朝倉未来がスタートさせた「BreakingDown」の大ヒット。
「BreakingDown」は1分間の格闘技エンターテインメントと題し、さまざまな格闘家が1分間で戦い、頂点を決める番組でこれまで5回開催され、5回目ではYouTubeの枠を超えAbemaのPPV(有料オンラインライブ)での配信が行われるほどとなった大人気コンテンツです。
1本につき1時間以上の尺があり、中には5時間を超える動画もありますが、平均500万~600万回再生されており、第4回の動画では1200万回も再生されています。
これまでにもそうした企画動画はありましたが、ヒットしたというほどには伸びなかった印象です。
しかし、今年はYouTuberが企画する番組型動画が当たり前になりつつあります。
2022年7月には中町兄妹の中町JPによる彼女候補を一般公募し彼女を探す「BACHELOR JP」が、9月にはヒカルによるさまざまな理由で借金を抱えた人を集め、優勝者に1000万円を渡す「下剋上!!」がスタート。「BACHELOR JP」は平均50分、「下剋上!!」は1時間半とどちらも長尺ですが、200万回ほど再生されています。どちらもテレビ番組のような映像クオリティで美術セットも作り込まれています。
また、喧嘩自慢を全国から募集し、2分1ラウンドで戦う「ケンカバトルロワイヤル」や、事業企画をプレゼンし投資の有無をジャッジする「令和の虎」、男女6名が共同生活をし事業開発を行うドキュメンタリーショー「Nontitle」など、さまざまな番組型動画がYouTubeで人気を博しています。
こうした流れの背景にはYouTuber自体の人気ももちろんですが、ディレクターや作家といった、これまでテレビを主戦場にしていたクリエイターがYouTube業界に参入していることがあります。ゴールデンタイムを筆頭として若者のテレビ離れが進んでいるといわれている昨今、若者の視聴者はYouTubeや動画サブスクリプションサービスを視聴する傾向にあります。
全年齢向けのバラエティテレビ番組が増える中、テレビではできない過激かつ尖った内容のコンテンツをテレビ業界出身のクリエイターたちがYouTubeで作り始めている流れが見えます。
また、コロナ禍を経てYouTubeの視聴層が広がっているのも、番組型動画が増加した要因の1つです。2020年6月時点でYouTubeの国内利用者は18~64歳までで6500万人といわれており、コロナ禍でYouTubeを視聴する人は格段に増え、世代も幅広くなってきています。特に30~50代の視聴者は1980~2000年代の攻めたテレビバラエティを見てきた世代でもあり、番組型動画との親和性も高いです。
面白い一般人を探して番組内でフックアップするといった形式は「ガチンコ!」(1999~2003・TBS系列)や「学校へ行こう!」(1997~2005・TBS系列)、「恋のから騒ぎ」(1994~2011・日本テレビ系列)といったかつての大人気テレビ番組のようです。最近ではY2Kや平成レトロのように20年前のファッショントレンドが一周して今の若者に流行っているように、エンタメの波も回ってきたように感じます。