金間:失敗を徹底的に回避するこうしたゼロリスク志向、思考停止状態は今後どこまで続くのでしょう。イノベーション研究者としては、日本が何も生み出せない国になってしまうのでは、と心配になります。
稲田:物語エンタメの世界にも、ゼロリスクの快適さを求める気運が見受けられます。普通、主人公は逆境を乗り越えて成長していくものですが、不快な登場人物に水を差してほしくないという声が、ライトノベルやアニメの分野で目立ちはじめている。最初から最後まで主人公は最強で、1回も悩んだりしない。そういう快適さを求めている読者が結構多いと、あるラノベ編集者の方が言っていました。
金間:同じようなことを危惧される方々から、「今の若者とどう付き合えばいいのか」「仕事上のアドバイスをどう伝えればいいのか」と質問されるときは、こんなふうに答えています。
「若いとき、自分は~ということをしなくて後悔してる。だから、お前は俺のようにはなるな。今やれることをやりなさい、応援するから」。かっこいい言い方ですが、いい子症候群にはあまり響きません。逆に、刺さるのは次の言い方です。「あのとき、自分は~ということをしなくて後悔した。だから、今からやろうと思って、参考書を本屋で10冊買ってきたんだ。さっそく始めてみたんだけど、これがおもしろくてさ」。
稲田:なるほど。今、自分は実行しているよという現状報告ですか。
金間:そうです。いい子症候群の若者たちは、現役選手のことはストレートに尊敬します。「こんなキャリアがある人でも、失敗して、またやり直すんだな」というところにかっこよさを感じる。そして、もっと聞かせてくださいという姿勢になります。
そうなったら、「ちょっと手伝ってくれないか」と言ってみてください。「もちろんです。何をやればいいですか」と返ってきます。
稲田:歳を取ると「いい年して奮闘してるなんて恥ずかしい」という感覚が生まれがちですが、その逆なんですね。
金間:大人ががんばって世界を変えようとすることで、それを見た若者たちも少しずつ変化していく。やっぱり「若者は大人のコピー」なんですよね。