稲田豊史(以下、稲田):金間さんの本を読んで、私の本と同じことを別の言い方で表現されていると思いました。その1つが「失敗したくない」というキーワードです。今の若者はみんな失敗したくない気持ちがすごく強いですよね。それで思い浮かぶのが若者のTwitter離れです。今のTwitterって、罪に対して罰が大きすぎるんですよ。
金間大介(以下、金間):と言うと?
稲田:ちょっとした失言や誤認ツイートが、見知らぬ人たちからの集中砲火を浴びるじゃないですか。大学生が軽い気持ちで発した理想論じみたつぶやきに対してすら、いい大人のインフルエンサーが引用リプで冷笑する。ほんのちょっとした“失敗”なのに、大きなダメージを食らうわけです。
金間:失敗を怖がる理由は多岐にわたると思うのですが、例えば世界的な意識調査の中に「見知らぬ人を助けたことがあるか」という設問があって、その結果として、日本はYesと答えた割合が125カ国中125位なんです。世界一、知らない人を助けない国ニッポンなんですよ。「失敗したのは本人のせいだから助けることはない」という考え方が、この結果に含まれていると思います。
稲田:日本人は自己責任をとても重視するんですね。にしても非情な国民だ……。
金間:就職活動のエントリーシートに書く「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」にも、若者の失敗回避傾向を強く感じます。失敗したくないから、ネット上に匿名でアップされている前年の内定者エピソードをコピペしちゃったりする。他人の評価、他人の判断、他人の価値観に乗っかりやすい。
稲田:エンタメ作品も、みんなが観ているものから順番に観る。観ている人が多いほうがハズレない、つまり失敗する確率が減るからです。
金間:私の本では、SNS上のインフルエンサーがなぜこんなに人気なのかについても触れています。結論としては、インフルエンサーの勧める商品やサービスに追随していれば、何も考えないで済むからです。
稲田:インプットからアウトプット、あるいはインプットからアクションまでの時間が短すぎることも、背景にあるように思いますね。本来は情報を得たら、自分の感性に照らし合わせて判断を下すために一定の時間が必要です。だけど、今は摂取すべき情報が多すぎて、熟考するだけの時間がない。それゆえか、「映画はこの10本を観ておけば大丈夫」「アメリカ文学を語るなら、この3冊だけ読めばいい」というような“ファスト教養”的なふるまいも横行していますよね。
金間:たしかに(笑)。テレビCMは、観て興味を持っても、その後自分で比較検討して買うか買わないかの意思決定をしなくちゃならない。インフルエンサーの場合は投稿を見てすぐ「買う」ボタンをポチッとすれば完了。ファストどころじゃない、瞬間に決めてしまう。思考停止消費です。