しかも、その施策は何でもよいわけではなく、ラボ実験などで効果が裏づけられた、精度が高いテクニックを使う必要もあります。
要するに、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」では大した効果を望めず、バズるためには「上手い鉄砲を数撃って当てねばならない」わけです。
何とも難しい話ですが、「消費者の心を動かす手法」についてはすでに膨大なデータが存在し、先に挙げたバーガーらの研究のほか、社会心理学や消費者心理学の世界からも複数の報告が上がっています。それらの手法を少しずつ取り入れていけば、確実に「バズる」商品への一歩を踏み出すことができるでしょう。
そこで、商品を使うユーザ-の「体験」 について考え、その形をデザインしていきます。ここで言う体験とは、ユーザーに次のような感覚をもたらす商品設計のことです。
いくら消費者の脳内を理解して商品の価値を高めても、商品を実際に使ってもらわねば話がはじまりません。「私の商品はこれといった特徴がなくて……」と思われる人もいるでしょうですが、うまくやれば、難解な科学ニュースでも注目を集められるのです。
拙著『ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング』でも詳しく解説している進化論はとかく誤解を招きやすい思考法であり、「表面的な動機なんて無視してよい」や「みんな性欲に動かされているだけ」といった極論を生みやすい傾向があります。
このような話は刺激的で目を引きますが、それだけに現実の消費行動から外れた理解になりやすく、実際のマーケティングには役立ちません。このような誤りを防ぐためにも、よく起きる問題点に注意してください。
進化論から見た根本的な本能を重視しますが、だからといって表面的な欲望を否定したいわけではありません。
一例として、ある男性が高価なスポーツカーを買った理由を知りたいとします。ここで表面的に考えれば、「性能が高いからだろう」や「同僚に見せつけたいのだろう」などと思いつくでしょうし、進化論の視点を使えば「伝える本能を刺激して生殖の機会を増やすためだろう」といった仮説に行き着くかもしれません。
しかし、ここで「どちらの予想が正しいのか?」と考えるのは間違いのもとです。どちらの仮説を採用した場合でも、同じぐらい確からしい宣伝法を生み出すことができるからです。
「高級車を買う人は同僚に見せびらかしたい」という仮説をもとに、「これは一流の男だけが持てる商品だ」という宣伝をする。
「高級車を買う人は生殖の機会を増やしたい」という仮説をもとに、「この車を買えば魅力的に見える」という宣伝をする。
どちらの広告が正しいのかは、実際に効果を計測しないと判断できません。それぞれの仮説は、異なる分析レベルで同じ行動を説明しているに過ぎないからです。簡単に言えば、これらの仮説は次のような関係にあります。
表面的な仮説:目に見える行動をベースにするため、直感的に理解しやすく、すぐに具体的な販売方法を思いつきやすい。しかし、そのぶんだけ、消費者の深い欲求には刺さらない可能性がある。
進化論的な仮説:ユーザーの無意識を掘り下げるため、直感的に理解しづらく、具体的な販売方法を考えるには熟考が必要となる。しかし、そのぶんだけ、消費者の深い欲求に刺さる可能性がある。
表面的な思考と進化論的な思考には合わせ鏡のようなメリットとデメリットがあり、互いを補い合う存在だと言えます。