哺乳類の脳を見比べてみると、これが同じ脳なのかと驚きます。図1は、いろいろな哺乳類の脳を上から見たものです。一見して、どれも脳だとわかる程度には類似していますが、よく見ると違いがあることがおわかりいただけるでしょうか。
基本的には、どの脳の大脳皮質にも右脳と左脳があり、その下に小脳、そして脊髄につながる脳幹が見えています。ヒトの場合は、大脳皮質が非常に発達しているため、小脳は隠れて見えませんが、基本的な構造は一緒です。
一方、マウスやラットなどの大脳皮質にはシワがないことに気づいたでしょうか。巷ではこの脳のシワが多いほど「頭が良い」と言われていますが、それは誤解です。このシワは、大脳皮質の表面積と頭蓋骨の大きさによって決まりますが、ヒトの場合は大脳皮質を広げた際の表面積は、新聞紙一枚程度と言われています。それを頭蓋骨の中に入れるためにはシワができてしまいます。
霊長類の中でも、コモンマーモセットではシワがないことが有名ですし、イタチの仲間のフェレットの脳にはシワがあることが知られています。シワの有無と賢さにはあまり関係がないと考えて良いと思います。
動物実験では、ある実験操作をした際の動物の行動の変化や、組織の構造や細胞の形態やはたらきの変化からその実験操作の意義を類推するという方法がとられます。これにより、その実験操作と観測される変化の間の関係を知ることができるのです。
多くの場合、我々が知ることができるのは「相関関係」です。つまり"関係がある"ということだけがわかります。さらに一歩進んで「因果関係」を知ることは多くの場合難しいですが、目標としては因果関係を証明したいという気持ちがあります。
生物の研究をする上では、機能欠損と機能獲得という方法が、因果関係を類推する上で有効になります。たとえば、古典的には、薬や電気刺激などで機能を増幅する方法や、臓器を切除したり、脳の神経接続を切断したりする方法がとられてきました。
さらに最近では、遺伝子を直接操作することで、機能を欠損させたり、これまでなかった機能を与えたりすることができます。これによって、その遺伝子が、とある病気にどのように関与しているのか、あるいはその遺伝子を復旧することでどのように回復するのかなどを調べることができます。
遺伝子の操作や脳の研究などは神の領域で、できれば踏み込んでほしくないという意見も聞きます。実験動物の話をしてきましたが、不快に思った方も多いのではないでしょうか。
人間のエゴで、罪のない動物を利用してもよいのかという議論は昔からあり絶えることがありません。実際、ヨーロッパやアメリカでは、すでにサルを用いた研究は、法律で禁止されつつあります。
ドイツでは、医学部ですらも動物実験を行うことが難しく、コンピューターシミュレーションで勉強すると聞いています。
確かに研究者が、好奇心のままに動物実験を行い、むやみやたらに命を犠牲にしたり、いたずらに病気にしたり、実験をしているようなイメージが強くあるかと思いますが、それは誤解です。
これまでに述べてきたように、いきなりヒトで実験するのは困難です。たとえば、新しい薬や化粧品を開発した際に、その効果や影響を長期にわたって(時には世代を超えて)調べる必要があります。これは、単に好奇心からではなく、その研究をすることが 人間社会やひいては地球全体の利益になると考えた上で行っています。
また、どの実験動物を利用するかには相当慎重な検討がなされています。当然、動物を使わない代替法も十分検討した上で実験を行います。