論理がわかる人とまるでわからない人の決定的差

論理は人類が獲得した最高の知識の一つです(写真:Pangaea/PIXTA)
陰謀論やフェイクニュースを信じ、党派的な議論や認知バイアスに陥って、結論を誤る原因とは? ハーバード大学の人気講義が教える、理性の働かせ方を解説した『人はどこまで合理的か』より一部抜粋、再構成してお届けします。

三段論法の簡単な例で考えて見よう

合理性の根底に何かがあるとすれば、それは論理に違いない。合理的推論の典型といえば、「PならばQである。Pである。ゆえにQである」の三段論法だ。簡単な例で考えてみよう。

【問題】-----------------------
ある国のコインの図柄が、片面はその国の身分の高い王族、もう片面はその国を代表する動物になっているとする。そして「片面が王様なら、もう片面は鳥である」というルールがあるとする。さて、今ここに4枚のコインが置かれていて、それぞれ〈王様〉〈女王様〉〈ヘラジカ〉〈カモ〉の図柄が見えている。ルール違反がないかどうかを確認するには、どのコインを裏返すべきだろうか?
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多くの人は〈王様〉、または〈王様〉と〈カモ〉と答えるが(あなたもそうだろうか?)、正解は〈王様〉と〈ヘラジカ〉である。なぜだろう? まず、〈王様〉を裏返すべきだというのは誰にでもわかる。もしその裏に鳥の図柄がなかったら、問答無用でルール違反なのだから。次に〈女王様〉だが、ほとんどの人はこれを裏返す必要はないと知っている。ルールは「王ならば鳥」であって、女王には言及がない。

次に〈カモ〉だが、多くの人はこれを裏返すべきだと答える。だがよく考えてみるとその必要はない。ルールは「王ならば鳥」であって、「鳥ならば王」ではない。最後は〈ヘラジカ〉だが、これはどうだろうか。もしその裏が〈王様〉だったら、「王ならば鳥」というルールに違反していることになる。ということで〈王様〉と〈ヘラジカ〉が正解である。この問題の平均正解率は10パーセントでしかない。

これは「ウェイソン選択課題」(認知心理学者のピーター・ウェイソンが考案したのでこう呼ばれている)の一つで、さまざまな「PならばQ」ルールを使った同様のパズルが65年前から認知心理学の実験に用いられてきた(当初は片面が文字、もう片面が数字のカードで、「片面がDなら、もう片面は3」といったルールで行われた)。

そのあいだずっと人々は、「PならばQ」のルール違反を見つけるために、〈P〉を裏返し、あるいは〈P〉と〈Q〉を裏返してきたが、〈Qでない〉〔Qの否定、すなわち前述の例の「動物だが鳥ではないもの」〕を裏返す人はいつも少なかった。

間違えた人も正解が理解できなかったわけではない。認知反射テストと同じで、説明されると「何で気づかなかったんだ!」と額に手を当てる。だが説明がないと、人の直感は無分別なままで、論理的な判断ができない。

確証バイアスという人間の愚かさ

ここから人間の合理性についていえることは何だろうか? 一般的には、これらの結果はわたしたちに「確証バイアス」があることを明らかにするものと考えられている。確証バイアスとは、自分の考えが正しいことを示す証拠ばかりを求め、間違っていることを示す証拠には目を向けようとしない悪癖のことである。

夢をお告げだと考えるのは、身内の誰かが災難に見舞われる夢を見たあとでそのとおりになったときのことは覚えているが、そうならなかったときのことは忘れてしまうからだ。移民は多くの罪を犯していると考える人は、ある強盗事件の犯人が移民だったというニュースは覚えているが、犯人が移民ではない強盗事件が山ほどあることは考えないからだ。