ただし、日本において起業を目指す人が少ないことは、裏を返せば「大企業や公共団体など安定的な就労先が無数にある」ことも指していることに注意が必要である。実際に、GEMにおいて高得点なのはドミニカ共和国、スーダン、チリ、グアテマラなど「起業する以外にまともな就職先がほとんどない」国々だ。
とはいえ、比較的豊かな国のみを対象とした場合にも、日本はほとんどの起業家精神指標で断トツの最下位となる。また、現状が良くても、前述したように、このままでは日本は早晩貧しくなる。
なぜ日本では起業家精神が生まれにくいのか。GEMによる、起業を促す社会制度・風土の整備状況(Entrepreneurial Framework Conditions、EFCs)調査(表1)を見てみよう。
表1 起業を促す社会制度・風土の整備状況(EFCs)質問項目
これら各項目における日本の得点状況(図3の青のレーダーチャート)と先進国の平均(黄色のレーダーチャート)の比較から、日本における起業の最も大きな足かせは「I.社会的・文化的規範(Social and Cultural Norms)」 だとわかる。
図3 日本における起業促進の社会制度・風土
ただし、悲観することばかりでもない。いくつかの項目では先進国の平均並みの点数を取っているし、「G1.新規参入の容易さ(市場)(Ease of Entry: Market Dynamics)」では先進国平均を大きく上回る。
では「I.社会的・文化的規範」を改善するには、どうすればいいのか。日本のよさは残しつつ、日本の弱みを克服するヒント、しかも「今日から」「各家庭や個人で始められる」ヒントがイスラエルの家庭教育にある。
実は、世界一の起業大国イスラエルは、政府の支援も大学での起業教育も十分でなく、新規参入への政府の規制や市場の評価もシビアという、厳しい起業環境にある(図4)。
図4 イスラエルにおける起業促進の社会制度・風土
EFCs調査の13項目において、日本は?社会的・文化的規範、?学校での起業家教育、?商業的・専門的インフラの3項目で先進国最下位だが、イスラエルも同じく、「B1.政府の政策(支援と関与)(Government Policy:Support and Relevance)」「C.政府の起業プログラム(Government Entrepreneurial Programs)」「G2.新規参入の容易さ(規制)(Ease of Entry:Burdens and Regulation)」の3項目で最下位であり、最下位の数でも日本と並んで総合最下位である。そうした不利を克服したイスラエル国民の起業家精神の秘訣はどこにあるのか。
それは、日本において大きな足かせになっている「I.社会的・文化的規範」が突出しているということだ。イスラエルの家庭は、日常の問題を経営教育の場として捉えており、「起業や企業経営が身近に感じられる」という社会的・文化的な規範を持っているのである。
次に示すのは、イスラエル系企業Goldratt Japanの岸良裕司CEOへのインタビュー調査から得られた、「金魚を飼ってほしいと駄々をこねるイスラエルの4歳児」の実際の事例である。