日本並み悪環境なのにイスラエル起業世界一の訳

イスラエルが世界一の起業大国となった秘密に迫ります(写真:rglinsky/PIXTA)
岸田内閣は2022年を日本の「スタートアップ創出元年」に位置付けた。政府は学生起業した大学生などの訪問講演などを基軸に、小中高生を対象とした起業家教育(企業家教育)も後押しするという。
新著『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』を上梓した経営学者の岩尾俊兵氏は、「日本において真に効果的な起業家教育は、普通の人に『自分でも起業できる』と気づかせること。これは家庭でもでき、そのヒントはイスラエルにある」と言う。

国民1人当たりのユニコーン起業輩出率が世界一

意外に思うかもしれないが、いま、世界一の起業大国といえばイスラエルだ。国民1600人に1人が起業家であり、1人当たりのベンチャーキャピタル資金獲得額が世界一(Dr. Eli Abramov講演資料, Focus on Innovation: That Matters)で、後に見る国民1人当たりユニコーン企業輩出率においても、アメリカを抜いてイスラエルは世界一だ。

また、ブルームバーグの2018年調査によると、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、グーグル共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグなど、アメリカの大富豪にもイスラエルと同祖のユダヤ系が多い。

しかも、驚くべきことに、イスラエルは起業環境において日本に並んで「最悪」と評価されるのにもかかわらず、この偉業を成し遂げているのである。だからこそ、同じく恵まれた起業環境にあるとはいえない日本は、イスラエルから多くを学べるのではないだろうか。

反対に、世界中からスタートアップ投資が集まり資金調達も容易で世界一の大学群を抱えるアメリカなどは、日本とは環境条件が違いすぎて参考にならないだろう。

日本の開業率と廃業率はともに低く、企業の新陳代謝が活発でない(『科学技術指標2021』)。もちろん、これは日本に優良な老舗大企業が多く存在することの裏返しでもあり、このことだけをもって嘆くのは間違いだ。

ただし、老舗大企業もまた過去に日本の誰かが起業したものである。そのため、次なる老舗大企業が次々と生まれてこなければ、日本全体が長期的に貧しくなる一方だ。しかも、今後の日本経済を支えるユニコーン企業(時価総額10億ドル以上を見込める未上場企業)の数は先進国の中で圧倒的に低い状態にあり危機は目の前にある。

●図1 先進国のユニコーン企業数比較

出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所『科学技術指標2021』を基に筆者作成

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図1のデータと最新の国連の人口データを組み合わせて「人口1000万人当たりのユニコーン企業数」を作成すると、より深刻な事態が浮かび上がる(図2)。この数字では、日本は先進国どころか中国やブラジルにも大きく負けているのだ。

●図2 人口1000万人当たりユニコーン企業数

出所:筆者作成

国際的に見ても低い日本人の起業家精神

問題の背景には、国際的に見て低い日本人の起業家精神がある。

世界47カ国を対象とした起業家精神調査Global Entrepreneurship Monitor(GEM)2021/2022年版によれば、起業家精神に関する6つの項目のうち、日本は「周囲に起業家の知人がいる」「自分には起業の機会があると思う」「自分には起業の能力や技能があると思う」の3項目で断トツの最下位、「起業志向」の項目では46位だ。