今、WEB業界入りする人が知るべき「30年の重み」

市場での自社のポジションの明確化やスペック・価格以上の付加価値付けを目的とする「ブランディング」だが、デジタルマーケティング出身/マスマーケティング出身で微妙に定義や捉え方が異なる言葉となっていると、森永氏は指摘する。

森永真弓(もりなが・まゆみ)/株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所上席研究員。千葉大学工学部を卒業後、NTTを経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。著作に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』、『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(共著)がある。(撮影:今井康一)

「デジタルマーケティングのみに携わっている人は『ログで計測できて短期的に広告効果を発揮するパフォーマンス重視の獲得系広告』が広告の基本だと思っています。クリックできる広告が「普通の広告」なんですよね。デジタルマーケティングはクリックやコンバージョンを目的とする獲得系広告から始まっているので。なのでクリックできない広告は「それ以外」として一括りに捉えがちなんです。

一方で、マスマーケティングでは広くコミュニケーションマーケティングの中に獲得系広告のメニューがあって、さらにそこにクリックできる広告とできない広告があるという分類をします。広告の整理論が感覚的に違うんです。

これは年齢ではなく職業的な出自・立場の問題もありますし、学問的にマーケティングの勉強をした人かどうかでも違ってきます。いろんな現場で『なんかこの人と言葉がかみ合わないな?』と感じる場面が頻発しているようです」

そんな齟齬の要因を、本書では歴史的な流れを示しつつ、丁寧に説明。読者からは「マーケティングしている者同士で同じ言葉を使っているのに、なぜ話が食い違うのか。ずっとモヤモヤしていたことを言語化してくれた」といった内容の感想が寄せられているという。

「30年弱の間にいろいろな分岐や進化を経たインターネットの歴史のルーツをたどれば、新しくネット業界に入った人も、自分がどういう流れの中にいるのか理解できます。

ネットのビジネスやデジタルマーケティングって、人間とは関係ない数字と一生懸命に向き合っているイメージを持たれがちですが、結局その歴史をつくってきたのは人間の欲望なんです。人間の本質が変わらない以上、一定の周期で繰り返される可能性が高い。

過去に来た道を知ることで、将来また起こることかもしれないことに対する構えもできるし、それだけでも目の前の仕事に対する向き合い方が変わり、気持ち的にもラクになるかなと思います」

成熟するネット業界では人材も多様に

取材の中で、森永氏から一貫して感じたのは、「成熟したネット業界に、今、新たに入ってくる人々へのあたたかい眼差し」だ。

「上の世代はついつい『若い人はデジタル得意でしょ?』と考えがちですが、今はもう『20代で若いから詳しい』とか『上の世代だから詳しくない』などとは、一概には言えない時代なんですよね。

実際、ネット系の会社に、『家にパソコンないです』という若者が入社してくるケースはわりと珍しくありません。ネット系の会社が就職先・転職先として、それだけ幅広い人たちに選ばれる時代になったということだと思います。

ただ、成熟するなかで仕事の内容はどんどん細分化され、それぞれのスキルを身につける難易度もあがっています。DX化の影響で、人材を広く募集しているネット業界ですが、ハードルの高さを感じてしまう人がいるのも自然なことだと思うんです」