定年や役職定年の後、自身のキャリアをどのようにしていくかということ以上に、家族の事情も中高年男性の生活に大きな影響を与える。実際、少しでも親の介護負担を減らそうと、地方に住む親を自分が住む都市部の住まいに呼び寄せているケースも増えている。
親を近くに呼び寄せれば、仕事を辞める必要はなくなるかもしれないが、月々8万円の負担が増えるかもしれない。少しでも経済的負担を減らそうと自宅で介護を行った結果、舅姑の世話に疲れ果てた妻から「介護離婚」を切り出されるリスクもある。
多くの中高年男性にとっては、家族が皆元気で介護状態に直面することなく、子どもも経済的に自立し、自身も仕事が続けられることが理想だと考えるが、賃金の低下と起こりうる家族の事情を想定しながら、マネープランを練っておくことは重要である。
先の記事(45歳以上「高学歴男性」が持っていない3つのモノ)では、高学歴中高年男性の労働価値観の特徴や変化として、出世や昇進への欲求といった外的報酬への欲求は、年齢の経過とともにやや低下していくものの、仕事へのやりがいや自己成長への欲求といった内的報酬への欲求の高さは変化しないことを取り上げた。
役職定年などで役職や権限がなくなり、いままでのスキルや経験を活かしたいという気持ちは強いのに、どのように気持ちの整理をつけて、今後の仕事に取り組んでいけばよいのか、悩みを抱える中高年男性は多いのではないだろうか。
現場で多くの大企業の中高年男性に向けた研修事業を行ってきた社会人材コミュニケーションズの宮島忠文社長兼CEOは、「キャリアがうまくいっている、すなわち人生の満足度や仕事の獲得ができていると感じている人の特長は、キャリア観がしっかりとしている人。そのキャリア観を持つためには、自分の活躍の視野を特定の企業から社会に広げ、かつ評論家になるのではなく、自分が手を動かしてどのような課題を解決できるのか、どのような社会的役割を担えるのか、を理解することが大切だ。これが、プレ中高年が準備しておくこと」と指摘する。
今の職場環境と自分の意欲との間でギャップがあったとしても、社会的課題やそれに向けた自分の役割を改めて認識すれば、仕事に対する取組み姿勢や、見方は大きく変わってくる。また、そのことによって、自分の価値をより高め、社内外含めて新たな挑戦に挑む意欲も生まれてくるのではないだろうか。
これまでの仕事を続けられず、どうしても職を得ることが必要な場合、希望していた職での就職が決まらなければ、職種転換の道も考えなければならない。東京しごとセンターが行っている55歳以上の就職支援講習では、求人が多い業界の業界団体と連携して再就職支援を行っている。
介護、マンション管理員、警備員、ビル清掃、調理等、年間で20コースが提供されている。レジ操作を中心に、コンビニエンスストアの仕事を学ぶコースも設けられている。
特に人気が高いのは、マンション管理系の仕事で、平均月収(月給制の場合)は約17万円程度である。講習を受けた後、最終日に合同面接会を行い、直近の就職率は85%にのぼる。マンション管理の大手企業に入社できるチャンスであることも、人気の理由となっている。
また最近では、社会へ貢献しながら報酬を得たいという理由から、定年退職後の男性が介護関連のコースを受講するケースも増えている。
介護職への再就職ルートとして、介護事業者は中小・零細が多く、採用にコストがかけられないこともあり、採用募集している事業者への直接申込みのほか、ハローワークでの応募が多くなっている。訪問介護の場合には、訪問ヘルパーの資格が必要とされているが、それ以外は不要である。