部下がついてくる上司と離れる人の「叱り方」の差

「次につながる叱り方」とは、どういうものなのでしょうか(写真:zon/PIXTA)
10秒で伝えられる言葉はどのくらいでしょうか。パフォーマンス心理学の研究では、人間は10秒の間に約44文字を話せることがわかっています。「普通であれば、なんとなく発してしまう10秒間のひとことを意識することは、コミュニケーションの質を上げることに役立ちます」と言うのは、パフォーマンス心理学第一人者である佐藤綾子氏。本稿では、同氏の新著『10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』を一部抜粋のうえ、たった10秒で変わる「次につながる叱り方」についてお届けします。前回:『また同じ話!上司にそれとなく伝える「言い方」

10秒で上手に叱ってさらなるやる気につなげる

「然るべきことがらについて、然るべきひとびとに対して、さらにまた然るべき仕方において、然るべきときに、然るべき間だけ怒るひとは賞賛される。かかるひとは『穏やかな人』といえよう。」
(アリストテレス『ニコマコス倫理学』第4巻 第5章)

このアリストテレスの名言をしっかりかみしめて読んでみてください。喜怒哀楽の感情の中でも一番手に負えないのが怒りの感情です。

部下や仲間や子どもや後輩など、さまざまな自分より力や地位が下の人間に対して、怒りのとりこになって①正当な内容ではないことで叱るが「怒る」に変わって感情のとりこになったり、②正当な相手ではない人に怒りをぶつけたり、③叱り方が間違っていたため相手を傷つけたり、④タイミングが合わず効果が出なかったり、⑤長々叱って逆切れされたりすることがあります。

そういう叱り方の間違いを私たちがついやってしまっていることをアリストテレスが看破したのです。そんな5つの間違いを犯さず、適切な叱り方をした人が「穏やかな人」つまり「尊敬される人」だと彼は説いたのでした。2300年の時を超えて、今も真実ではありませんか!感動とともに上手な叱り方の10秒を覚えてください。

■5つのルール
①叱りと怒りを区別する
その叱りは怒りの感情に振り回されていませんか? 正当な内容確認をしたうえでなるべく冷静客観的な叱り方をしてください。
②人格否定をしない
叱ることと、相手の人格を否定することは異なります。立場が下の人に対して人格否定の言葉を発するとパワハラとも捉えられてしまいます。
③叱るべきタイミングを見極める
人の見ている前で叱るのは反発や逆ギレにつながるおそれがあります。
④五月雨式の長い指摘はしない
過去にさかのぼって、良くない部分をズラリと並べて叱られると、相手はムキになって逆にやる気を削いでしまいます。
⑤必ず救済措置をつくる
叱ると同時に、それに対する対策を提案すると、相手の逃げ道を提供できます。より相手があなたの言葉を受け入れやすくなるでしょう。

「遅刻による悪影響」を示す

場面1 いつも遅刻する部下に注意するとき
×先月も2回遅刻したよね。この半年だと10回以上だよ。君はダメな人間だね
〇君が遅刻すると、朝礼で分担が決められなくてみんなにも迷惑がかかっているよ

×人格の否定は絶対NG

先月の話はともかく、半年もさかのぼって注意すると、言われたほうは反省するより前に反感の気持ちが湧いてしまいます。

また、「君はダメな人間だね」という人格否定、全否定はぜったいに口にしてはいけないこと。ルール②「人格否定をしない」に違反です。ダメなのはあくまでも遅刻をしたという事実であり、その人の人格とは関係ありません。「自分はダメな人間なんだ」という思い込みは、人間の成長を阻む最大の壁になってしまいます。

〇遅刻をすることで起こる「悪影響」を伝える