完全なレシピどおりに料理を作るのとは対照的に、冷蔵庫を開けて、そこにある材料と自分の料理の腕で、どうやっておいしいものを作ろうかと試行錯誤するようなものですね。
横石:自分の冷蔵庫に、何が入っているのかは絶対に知っておいたほうがいいですよね。いまここにあるものを楽しむ能力と言ってもいいかもしれない。
横石:こないだ脳科学者から教えてもらったのですが、モチベーションには2種類あって、トップダウン型とボトムアップ型のスイッチがあるそうです。前者は、計画と段取りありきで進めるもので、後者は、子どもたちが砂場で遊んでいるような自然発生的で自発的な状態。エフェクチュエーションは、どちらかと言えば、ボトムアップ型だなと思っています。
僕は、そのボトムアップ型のモチベーションを鍛えたいんですね。子どもが遊ぶように働きたいし、生きていたい。大人になるとどうしても、計画・目標が前提の世界になってしまいますから、そこをどう外すかが問われてきます。
三石:計画を立てるところが定まらないから、一歩踏み出せないということも多いですね。20代の方からは、ゴールや成功モデル、ロールモデルがないから踏み出せないという声をよくいただきます。
僕は、「得意なことや、好きなことからやってみたらどう?」と言いますが、足踏みしてしまうんです。学生時代もずっとそうだったし、就職してからも、その会社で役職になることなど、すべてゴールがあって計画どおりに進めるという状態に置かれていたわけですね。
でも、そのような環境は、ここ数十年のことです。それまでの長い年月の中では、遊ぶように生きているというのが普通だったわけですから、揺り戻しもあるかもしれません。
横石:『ライフ・シフト』では、人生100年時代では関係構築をはかることが重要だとされていますね。
コロナ以前にアメリカのグーグル本社に伺った際に、手書きで描かれた「YOU ARE NOT ALONE」というポスターが貼られていたのが印象深いです。こんなところでさえ孤独がはびこっているんだなと感じました。
僕もグーグルではありませんが、つねに新しいことに挑戦しているつもりです。同時に、ずっと孤独と戦っている感覚もあります。ですから、人間関係や人的資本をどう考えていいのか悩んでいて、三石さんに相談したいぐらいです。
三石:僕は、ワークショップのなかで、すごく長い付き合いになる方と初めて出会いました。お互いに30分程度、目標を立て合った程度でしたが、そこから長くお付き合いいただける関係性になったのです。
目標を立て合うというのは、お互いに支援し合う間柄になるんですね。「私だったらこういうことできるから、お手伝いするよ」と、いい意味でのおせっかい焼きをする中で、関係性ができていくように思います。
僕はこれを「代理行動」と呼んでいます。企業の中でも、足踏みしてしまったとき、「じゃあ私がMTGの設定してしまうね」「人を紹介するね」というだけでも、事が進むんです。そしてご縁もつながります。
横石:大事なことですよね。そういった話を、実直にやる人が『ライフ・シフト』に通ずるのだと思っています。本作は「行動編」ですが、やはり、素直に行動に移せるかどうかが問われていると思います。
三石:選択肢を減らしてしまうマイナスを生み出さない行動も大事です。例えば、部下を「おい横石!」と呼び捨てで呼ぶ人もいるかもしれませんが、横石さんが10年後には自分よりも上の立場になっていたり、あるいは、退職後にクライアントになる関係性になっているかもしれません。