ロシアのプーチン大統領は2月25日、国家安全保障会議でウクライナ軍兵士に向け、ウクライナの現政権を倒すよう激しく呼びかけた。ところが彼はその数時間前、中国の習近平国家主席との電話会談において、「ウクライナとハイレベル協議を行うことを希望している」と“停戦”を視野に入れているかのような発言をしてもいる。
一般的な尺度で捉えればおかしな話だが、そもそもプーチン氏のこうした発言を真に受ける人は現実的に少ないのではなかろうか。事実、私の心のなかにも「どうせまたうそだろ」というような思いがある。
だが『ロシアを決して信じるな』(新潮新書)の著者、中村逸郎氏によると、「うそにうそを重ねるのがロシア流」らしい。中村氏は筑波大学人文社会系教授。40年にわたり、ロシア(ソ連)の各地を訪ねてきたという人物である。1980年8月に3週間、モスクワとレニングラード(現サンクトペテルブルク)に滞在したのを皮切りとして、渡航回数は100回以上。4年間のモスクワ留学も経験しているという。
その経験のなかには、日本人の感覚からすると理解に苦しむようなことも少なくなかったという。つまり本書はそうした実体験に基づいた、机上の空論とは異なるロシア論になっているわけである。
本書が刊行されたのは2021年2月、つまりちょうど1年前なのだが、この記述はまさに、いま起きていることそのままではないだろうか?
なお、ロシア人の持つそうした不可解さは「うそをつく」ことにもあてはまるようで、たしかにそう考えると冒頭で触れたプーチン氏の話の信憑性のなさにも納得できる。端的にいえば、ロシア人にとってうそをつくのは当然のことだというのだ。
これは、中村氏の友人である元ソ連共産党地区委員会幹部の発言だ。2019年2月7日、モスクワ・クレムリンで食事をしながら北方領土交渉の行方について話しているときに発せられたものだという。だとすれば、日本はソ連、ロシアにだまされ続けているということになる。
しかし、それはさておいても、もしこれが本当にロシア人の国民性の1つであるならば、今回のウクライナ情勢が少しだけ理解しやすくなるような気もする。