先ほどの、軍事関係のプロジェクトの中断もそうですが、例えば、私がいたときにも、日本のマーケティング担当者が、新しくローンチするサービスに対して、インフルエンサーに見返りを渡して肯定的な記事を書かせるという出来事がありました。
グーグルでは、このような「やらせ」はポリシーで禁止されています。この時にも、たちどころに現場から自浄作用が機能して、最終的には本社とも密に連携して問題解決や再発防止に向けて動きましたが、仮にトップからの指示であっても、おかしなことには多くの人が声を上げます。
グーグルでは「Don’t be evil(邪悪になるな)」という言葉もよく使われていました。東芝の不正会計事件や、財務省の公文書改ざん事件のようなことは起きにくいカルチャーだったといえます。もし、財務省でもグーグルのような自浄作用が機能していれば、多くの職員が「公文書改ざんなんて犯罪に手を貸すことはできません!」と毅然として騒ぎ出し、あのような不正が公然と行われることはなかったでしょう。
しかし、だからと言って、裏で、本当に悪いことは一切やっていないかどうかはわりません。ネットの世界でもリアルの世界でも、人の見ていないところで悪いことをする人はいるわけで、完全には防げないものです。しかし、非常に倫理意識の高い企業ではあったと思います。
グーグルのカルチャーは、アメリカの民主主義にも通ずるものです。アメリカの強みと言えるでしょう。ひずみができたら、正常化しようとするすごい復元力が働くのです。
アメリカという国の復元力への期待感はスコット・ギャロウェイ氏も『GAFA next stage』の最後のほうで触れていますし、クリントン政権時代に労働長官を務めたロバート・ライシュ氏の『最後の資本主義』の中でも述べられています。
民主主義も資本主義も暴走することはありますが、自分たちは、それを軌道修正する知恵やエネルギーを持っている――そんな楽観が彼らにはあるのでしょう。
グーグルには、「グーグルが掲げる10の事実」という行動規範があり、その中の1つに、「悪事を働かなくてもお金は稼げる」という項目があります。まるで幼児に「うそをついちゃいけませんよ」と言い聞かせるような文言ですが、そういった文言をあえて行動規範に掲げていることそのものに、大きな意味があるのです。
日本の大企業などは、インターネットのビフォーとアフターをまたいでいる企業がほとんどです。
インターネット以前からずっと続いてきた企業にとっては、突然、インターネットの時代になり、過去の優良資産が一気に不良資産になったり、以前の勝ちパターンがまったく通用しなくなったり、長い時間かけて築き上げてきた業務のやり方が生産性の阻害要因になったりで四苦八苦している状態です。
一方、グーグルをはじめGAFAは、インターネットの時代を作ってきた企業です。自分たちでクラウドの環境を作りながら、社内の創造性を高め、生産性を上げるツールとしても使いこなしてきました。
ビフォーインターネット時代の重たいレガシーが一切ありませんから、フットワークも良く、仕事も早いのです。
ドキュメント1つとっても、昔は、ワープロで作った文書をメール添付で関係者全員に送付し、修正してもらったものを集めて書き直してから、再びメールで確認をとるようなことをしていたわけです。でも、クラウドならその必要はありません。みんなで同じ文書にアクセスしながら作成と確認の作業を同時に進めることができます。
常にクラウド環境で仕事をしているグーグルでは、みんながそのメリットを最大限に活かす働き方をしてもいます。「クラウドを活用することによって、仕事が早くなるのだから、人を待たせない仕事の仕方をしよう」となるわけです。