「不安になりにくい人」がやっている日々の習慣

写真左より石川善樹氏、佐渡島庸平氏、羽賀翔一氏(写真提供:学研プラス)
自分にとって怒りとは、悲しみとは何か――。感情の1つひとつを認知し、解像度をどれだけ高められるかによって、あらゆるインプットやアウトプットが変わってくる。
感情は、すぐに脳をジャックす』より、コルク代表で編集者の佐渡島庸平氏、予防医学研究者の石川善樹氏、漫画家の羽賀翔一氏による鼎談を抜粋してご紹介します。

「安心」とコミュニティの関係性は深い

羽賀:僕にとって「安心」とはどんな状況なのかを考えたとき、まず浮かんだのが『宇宙兄弟』のアシスタントをしていたころの、作業をしている時間でした。小山宙哉さんから「ここの背景を描いて」などと言われて、決められた作業をしているあいだは、わりと安心していたなあと。

石川:やることが明確なうえに集中できるからね。アシスタント業務を終えて職場を出るときは、どんな心理状態なの?

羽賀:「疲れたなあ」という気持ちと、自宅に帰ったら自分の作品をやらねばという気持ちがあって、モヤッとしますね。当時はネームができると小山さんに見てもらっていたので、「また今日も見せられなかった……」なんて思っていました。

このモヤッとした感情を解消するにはネームを進めるしかないんですけれど、そこがうまくいっていないから、同じ感情がグルグルと回っている状態です……。

佐渡島:アシスタントとして背景を描くこととネームを考えること、どちらもやることは明確だけれど違いはあるのかな。

石川:難易度が違うと思う。でも羽賀君が『宇宙兄弟』のアシスタントをして感じていた「安心」って、役割を与えられている期間限定で維持できるものだよね。

1人のマンガ家として考えた場合でも維持できるかは別の問題で、今度は違う種類の不安が出てくるのでは? このままずっとアシスタントをやっていくべきか、とか。

羽賀:確かに目の前の作業に集中することで、ほかのことを考えずにいられるという側面はあります。ただそれとは別に、「自分はここに所属しているんだ」という安心感もあるんですよ。

佐渡島:「安心」とコミュニティの関係性は深いと思う。コミュニティの中で決められた役割があると「安心」が生まれるわけで、まさにその条件を満たしているね。ちなみに羽賀君が人生で一番安心していたときは? 大学時代とか?

羽賀:大学時代はずっとモヤモヤしていました(笑)。

佐渡島さんに作品を持ち込んでマンガ家になったときが、精神面は一番すっきりしていましたね。客観的に見たら「就職もせずに大丈夫か?」と不安に思われるだろうけれど、僕としては「自分を見つけてくれた人がいた!」といううれしさがありました。頑張れる場所ができたことのほうが大きくて、「マンガ家としてやっていけるかどうか」という不安感は、それほどなかったです。

佐渡島:人は、自分が所属する「安全・安心なコミュニティ」が3つか4つあると、生きていくうえで安定したバランスを保てると言われているけれど、羽賀君にとってはそれが『コルク』であり、かつての『宇宙兄弟』であり、『コルクスタジオ』なわけだ。

羽賀:そうですね。今この場所がなくなるのは、ちょっと怖い気がします。

佐渡島:ただ僕としては、「自分の役割」から生まれる「安心」については、「自由」と引き換えでもある気がするなあ。たとえば、羽賀君がアシスタントチームというコミュニティの中で役割を果たすことと、自分の思うままに作品を描くことは異なるから。どちらが悪いとかではなく、自分が「安心」を抱く対象がなんなのかは、意識しておいたほうがいいのかもね。