「不安になりにくい人」がやっている日々の習慣

あとは昼夜逆転の生活や、薄暗い部屋でずっと何かに没頭しているとか……。もちろん要因はこれだけではないけれど、少なくとも生活スタイルがめちゃくちゃな人は、負の思考や負の感情にのみ込まれやすくなってしまうと思う。

すべての感情は人間という「生身の箱」に湧き上がるものだから、まずはこの箱をすごく丁寧に整えることを最優先するのが重要ではないかと。

羽賀:佐渡島さんは朝ヨガやサウナ、ウォーキングを自身の生活スタイルに取り入れているし、まさに「箱を整える」ことを大切にしていますよね。

佐渡島:うん、かなり意識してやっている。今思い出したのが『レディバード・レディバード』というイギリスの映画。とある事故によって「母親失格」の烙印を押された女性が、自分の子どもを次々と社会福祉局に奪われるというストーリーで、実話を元にしているんだよ。母親がひたすら子を想う気持ちと、法による無慈悲さが強烈で、演じる俳優が情緒不安定になるかもしれないとカウンセラーを入れて撮影したらしい。

イギリス・アメリカの役者のトレーニングの違い

石川:イギリスでは、役者はまず「仮面の外し方」からトレーニングするのだと聞いたことがある。アメリカはその逆で、いかにして「仮面を付ける」かをトレーニングする。捉え方の違いが面白いよね。アメリカの役者は仮面を付けるのがうまい。イギリスの役者は外すのがうまい。つまりイギリスは、「“仮面を付けていない自分とは何か”をしっかり持っていないと、役柄や感情に自分を持っていかれるぞ」ということ。

石川:演じていない「自分」を理解できていれば、どんな役でも自由自在に行き来することができるという考え方なのだと思う。

学生時代の同級生とか昔の友人に会うと安心するのは、「まだ何者でもなかったころの自分」を知ってくれているからじゃないかな。

特定の仮面に執着しないことが大切

佐渡島:でもさ、今の自分の環境がすごく変わっている場合、昔の友人に会うと居心地が悪くなる人もいない?

石川:確かに(笑)!

佐渡島:たとえばスクールカーストが存在するような学校で、そこから抜け出したいと思っていた人にとっては、現在のほうが素の自分かもしれない。

石川:そう考えていくと、「素の自分」という概念すらあいまいになるな。むしろ大切なのは、特定の仮面に執着しないことだね。社会的な関わりの中で生きる以上、いくつもの仮面を持つことは避けられないけれど、「自分はいつでもこの仮面を外せる」という自信が「安心」につながるのかも。たとえば有名企業の社員だとして、「〇〇社の一員」という仮面だけを拠り所にすると、それを外したときの自分が何者でもないような気がしてしまうのでは?

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佐渡島:それ、僕はまさに「会社を辞めるとき不安じゃなかったの?」と聞かれた(笑)。でも僕としては、将来、自分の人生をコントロールできなくなることのほうが不安だった。

「安心」ってかぎりなくコントローラブルというか、自分で作り出したり操縦したりできる感覚と結びつくな。生活環境やコミュニティにおける「身体的安全性」と「心理的安全性」を確保することで土台が固まり、そこから「安心」が生まれるイメージ。

羽賀君はどう感じた?

羽賀:僕はこのテーマを話す前は、「不安をなくせば安心できる」という考え方に近かったと思います。でも「不安を消すこと」が、必ずしも「安心」にそのまま結びつくわけではないのかもしれない。どうすれば自分が安心を感じられるのかをもっと知って、そういう場を増やしていきたいです。