データで判明「TV揺るがすサブスクの脅威」の本質

無料であるにもかかわらず高所得地域の占拠率が全国平均を上回っている理由としては、高所得地域の住民ほど新しいサービスへの関心が高く、スマートテレビでティーバーを視聴できることの認知が進んでいるといったことが考えられる。

有料配信の領域ではどうだろうか。海外大手、国内放送局系のそれぞれについて上位3位(2021年1~3月期)までのサービスの占拠率の合計値を算出して比較した(FODは無料見逃し配信のサービスも提供しているが、本稿では有料配信サービスとして扱う)。

海外大手プラットフォーマーの有料配信サービスの占拠率はとくに高所得地域で高く、2021年1~3月期には9%にも達している。さらに高所得地域、全国平均のどちらでも占拠率が上昇傾向であり、テレビ受像機における存在感が日に日に大きくなっていることがわかる。

一方で国内の放送局が運営する有料配信サービスの占拠率は全国平均で0.8%前後のままであり、全体としては占拠率が上昇している配信領域にあって停滞してしまっている。

とくに高所得地域においては減少傾向にまでなっており、高所得地域の視聴者が国内の放送局が運営する有料配信サービスから海外の大手プラットフォーマーが運営する有料配信サービスに移ってしまっていることがうかがえる。

「無料だけ」から「無料、有料混在」へ

放送局は無料配信の領域において共通プラットフォームのティーバーが一定の成功を収めているものの、有料配信の領域においては有効な施策を打てておらず、海外の大手プラットフォーマーに一方的に視聴者を奪われてしまっているのだ。

放送局はほかの配信サービスに対するコンテンツの提供も行っているから、ほかのプラットフォームに視聴者を奪われたとしてもコンテンツプロバイダーとしてのポジションは一定程度は残っていくと考えられる。しかし、この傾向が続けばコンテンツを視聴者に伝送するプラットフォーマーとしての放送局の地位は低下していくことをデータは示唆している。

スマートテレビの電源が入っている時間自体にはコロナ禍の影響を除けば大きな変化がないことを前回記事で見たが、その内訳は急速に変化しており、「放送から配信」へ、そして「無料だけ」から「無料、有料混在」へという変化が確実に起こっている。

スマートテレビを利用するのは2021年4月時点でおおよそ3人に1人に限られる(IXT<現インテージ>調べ)が、さらなる普及と利便性の向上によって、この変化はさらに加速しながら、テレビ受像機全体に広がっていくだろう。

民放は協調して提供する共通プラットフォームのティーバーによって「放送から配信へ」という変化への対応に一定程度は成功しているが、「無料だけ」から「無料、有料混在」という変化に十分対応しきれていない。

高まる有料配信の重要性

無料と有料が混在するメディア環境下において高所得層ほど有料のプラットフォームを選択し、結果として広告が避けられる傾向を本稿では見てきた。この傾向が今後も継続するとすれば、高所得層に対するコンテンツのマネタイズ方法として有料配信の重要性はさらに高まると考えられる。

テレビ受像機での有料配信の視聴というこの新しい領域においてビジネスモデルを確立することは民放の喫緊の課題といえるのではないだろうか。

民放は無料放送という既存ビジネスや放送局間の利害関係にも配慮しながら配信領域でのサービスを提供しなければならず、環境変化への対応には海外の大手プラットフォーマーにはない困難が伴うだろう。

しかし見方を変えれば、無料放送で長く視聴者に親しまれてきたことや複数の放送局が多様な番組を制作していることが配信領域における民放の独自の強みにもなりうることをティーバーの成功が示唆していると考えることもできる。

これまで寡占状態だったテレビ受像機において新たな競合を迎える国内の放送局には、テレビ受像機における有料配信という新しい領域においても海外の大手プラットフォーマーとは異なる独自の価値を提供することが求められているだろう。