頭痛相談は専門の医師が対応し、オンラインで20分間行われる。相談者が事前につけておいた頭痛ダイアリーを参考に、生活改善のポイントや頭痛体操のやり方などを指導したり、必要に応じて病院への受診を勧めたりする。
「頭痛は、眼科や歯科のように通って治していくものという知識がなかった。今回、頭痛相談でお医者さんから、『そのつらさがなくなるかもしれないから、通院してはどうか』という提案をいただき、それで病院に通うことにしました。このきっかけがなければ、病院に行くことはなかったと思います」(先の女性)
富士通では従業員の健康支援の一環として、2020年度から「頭痛プロジェクト」を始動させている。その内容は、eラーニングによる頭痛に対する知識の習得、テーマにそってより詳しい頭痛の特徴を知るビデオセミナー、頭痛に悩む希望者が専門医に相談できる頭痛相談、職場環境作りなどからなる。
プロジェクトを始めるきっかけは、2018年に行った国際頭痛学会との共同調査だった。
調査対象の2500人のうち、85%が頭痛を自覚し、そのうちの84%は治療を受けた経験がないことがわかった。頭痛で休みを取得することによる、あるいは出勤しているが頭痛によりパフォーマンスが低下することによる経済的損失は、頭痛のある人1人当たり年間10万円、会社全体では年間26億円で、従業員全体の給与支給額の1%程度に相当すると推定された。
「経済的損失もさることながら、これほど有病率が高く、かつ治療を受けたことのない人が多かったことは、大きなインパクトでした」(健康事業推進統括部統括部長の東泰弘さん)
2020年12月時点で同社の従業員の9割がeラーニングの受講を終え、今はグループ会社の従業員が受講を始めている。受講修了者への調査では、72.8%が「頭痛に対する考え方・印象に変化があった」、75.8%が「頭痛のある同僚への接し方が変わりそう」と答えた。
また、受講を終えた人からは、「頭痛持ちの人の苦労や対処法が理解できた」「頭痛のつらさは周囲に理解しがたいので、ありがたい」といった声があったという。
頭痛相談では、頭痛に悩む当事者だけでなく、頭痛持ちの部下とどう接すればいいかと上司が相談に来たり、頭痛持ちの家族がいる従業員が相談に来たりと、広がりを見せている。
頭痛対策担当の加藤博久さんは、「頭痛の人が会社を休んだり、病院に行ったりすることを、安心して話せる環境作りが大切。そのための土台として、すべての従業員に正しい頭痛の知識を持ってもらうというのが、プロジェクトのねらいでした」と、一定の成果が見られたと話す。さらに、この富士通の頭痛プロジェクトに関心を寄せる企業も出てきているという。
取材当日、午前中だけで35人の頭痛患者を診療にあたったという坂井さん。以前に比べて受診者が増えていることを実感するが、それでも「まだ十分ではない」と言う。
「いくら新薬が登場しても、適切なセルフケアもあっても、その情報が当事者に伝わらなければ何の意味もなしません。頭痛ほど誤解されている病気はない。正しい知識を多くの人にもってもらいたい」