「たかが片頭痛」と軽視する日本人に伝えたい事実

多くの人が悩んでいる片頭痛。徐々にですが、社会全体で取り組むべき疾患という認識が出てきているようです(写真:miSaPhotographer / PIXTA)

多くの人が悩んでいるにもかかわらず、「たかが頭痛」などとすまされてしまうことも多いのが片頭痛。確かに命に関わる病気ではないが、痛みのために日常生活に支障が出たり、集中力が低下して仕事の効率が下がったりするなど、さまざまな面で問題が大きい。

どれくらい支障度が高いのか、病気や障害などにより失われた健康的な生活の程度を表した「障害調整生命年(DALY)」をみると、脳の病気ではなんと2位が片頭痛(13.1%)で、1位の脳卒中(47.3%)ほどではなかったにしろ、3位のアルツハイマー病(9.5%)より順位が上だった(「世界疾病負担調査(the Global Burden of Disease Study)2015」)。

また、近年、心身の不調によるパフォーマンスの低下を示す「プレゼンティーイズム」が注目されているが、日本と韓国の片頭痛患者について調べた研究(2021)では、片頭痛のプレゼンティーイズムによる経済的損失は、年間1人当たり24万円(日本のケース)と算出された。

この研究を実施した頭痛治療の第一人者、埼玉国際頭痛センターの坂井文彦さん(センター長)は、「片頭痛は長年、“病院に行くほどでもない些細な病気”と言われ続けていましたが、実は、患者さんのQOL(生活の質)を大きく下げるだけでなく、社会にとっても大きな損失をもたらす病気であることが明らかになってきた」とし、「徐々にですが、社会全体で取り組むべき疾患という認識が出てきています」と話す。

片頭痛に対する治療法

ここで改めて片頭痛についておさらいしておこう。

片頭痛とはその名のとおり、頭の片側がズキズキと痛む慢性頭痛の一種(両側の場合もある)。患者数は840万人とされ、有病率は8.4%。30~40代の女性に多い。月に数回、発作を繰り返し、その都度、痛みは4~72時間ほど継続する。動くと頭痛がひどくなり、吐き気やおう吐、光や音で痛みが増すこともある。

さらに、緊張性頭痛を併発しているケースや、鎮痛薬(非ステロイド系抗炎症薬)を過剰に服用してしまって薬物乱用頭痛をもたらしたりするケースもみられる。

坂井文彦先生の頭痛相談(写真提供:富士通)

片頭痛に対する治療といえば、これまでは鎮痛薬か急性期治療薬のトリプタン製剤を使うしかなかった。いずれも一定程度の効果はあるものの「痛くなってから使う薬」であるうえ、鎮痛薬は飲みすぎによる問題が、トリプタン製剤は効いている時間が2~5時間程度と短いという問題が、それぞれにあった。

そんななか、片頭痛患者に朗報となったのが新しい予防薬「抗CGRP抗体」の登場だ。4月に日本イーライリリーのエムガルティ(ガルカネズマブ)が、8月に大塚製薬のアジョビ(フレマネズマブ)、アムジェンのアイモビーグ(エレヌマブ)が発売された。

「抗CGRP抗体の登場には、なぜ片頭痛が起こるのか、そのメカニズムが明らかになってきたことが大きい」と坂井さんは解説する。そのメカニズムとは、“セロトニン-三叉神経-脳血管”説だ。

脳内では、セロトニンという脳内神経伝達物質が自律神経の働きを調整したり、不安などの感情を抑制したりしている。このセロトニンが関わっている神経の1つが、顔の表面の感覚などを脳に伝える三叉神経だ。

「三叉神経は、顔や頭の血管を拡張させたり、収縮させたりといった働きも担っているため、何らかの理由でセロトニンが減少すると三叉神経の調整がきかなくなってしまう。その結果、血管が拡張してさまざまな炎症物質が漏れ出し、片頭痛が起こるというのです」