ここでは、リーダーに求められるインテグリティ(高潔、誠実さ、真摯であること)について述べます。
個人戦ではできないことも集団戦ならできます。それには組織をリードする力が必須です。ところが実を言うと私は若いころ、組織を率いるのがとても下手でした。自分が輝きたかったし、自分が優れていることを証明して誇示したかった。「自分はできる人間である」ということの証明に忙しくて、他人の評価を高める手伝いなどしていられなかった。部下や取引先を「使い倒して」いたところがあります。
しかし当時はその自覚がなく、それを思い知らされたのは、プロジェクト・マネジャーという立場になったときに受けた研修でした。研修の前に、会社は私と一緒に働いている人たちからアセスメントと呼ばれるアンケートを取っており、その結果は研修の初日に私に伝えられました。
当時の私は37歳。コンサルティング会社ではMBA修了者が入社するのは20代後半が普通なのですが、私はコンサルタントを志したのが遅かったので、すでにその年齢になっていました。
アセスメントの結果は、非常にショッキングなものでした。私は上司であるパートナーからの評価はわりと高くて、研修を受ける人たちの中でも上位4分の1に入っている。しかし若い人たち、部下からの評価が低くて、下のほうの4分の1に入っているという。つまり上からは高く評価されているが、下からの評価が低いという結果だったのです。
「あなたは上司からは"信頼できる、任せておけばいい"と書かれている。しかし部下からは、"一緒に働くと息が詰まる"と言われています」
さらに追い打ちをかけるように、こうも言われました。
「あなたがリーダーを務めていたら、チームの能力はあなたの能力以上には発揮されません。うちの会社にはあなたぐらいの能力の人は、掃いて捨てるほど入ってきます。あなたの能力でチームのパフォーマンスの上限を設定されるのは、わが社にとって損失です」
そして、「これからリーダーであるとはどういうことか、この1週間一緒に学びましょう」と言われましたが、「自分の評価はそれほど低いのか」とショックで固まってしまいました。もし私がリーダーシップという点で少しでも変われたのだとしたら、この研修が契機だったと思います。
この研修で学んだのが、リーダーはマネジャーではないということです。「リーダーとマネジャーは違う。きみはマネージしているだけだ」とさんざん言われ続けました。
このとき私はようやく、自分以外の人の力を最大に発揮してもらうことで、成果が足し算ではなく掛け算になるということに気づいたのです。