天才オードリー・タン母語る「子を自立させる術」

オードリー・タン氏の母、李 雅卿氏の教育について解説します(写真:唐 光華)
天才プログラマーとして知られ、新型コロナウイルスの封じ込め戦略などで評価を高めた台湾デジタル担当相のオードリー・タン(唐 鳳)氏は、子どものころ、学校に行きたくないと主張し、登校しなかった時期がありました。そこで新聞社で働いていたタン氏の母である李 雅卿(リー・ヤーチン)氏は、数人の保護者と話し合って、自分たちで小学校を創設。子どもがのびのびと自分らしく生きられる場を作るために、日々保護者や先生、子どもと向き合ってきました。そんな李氏が自らの経験をもとに、親や子、先生からの質問や悩みに答えました。
※本稿は『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』を一部抜粋・再構成したものです。

「自主学習」させることによる心配とどう向き合うか

●親からの質問
「ほんとうに学びたいこと」を探すのは、簡単ではありません。子どもにとっては無駄な時間になるだけではないでしょうか。まずは、教科書どおりに学ぶことのほうが大事だと思います。

昨日、図書館で長いことお話ししたとき、私にはあなたの心配や不安が伝わってきました。家に帰って少し考えた後、自主学習と他者主導型学習(親や教師がリードして内容を決める学習)の違いをお話しするため、あなたに手紙を書くべきだと思いました。

現代の親は自分の子どもに対し、自立心、コミュニケーション能力、責任感、自己管理能力、物事への探求心などを持ってほしいと思うものです。しかし、これは教育によって叶えられる「目標」であり、教育の方法ではありません。

ではどんな教育をするべきか? この疑問に対する向き合い方は、人生や命に対する考え方によって違います。

あなたは人の命を道具のように扱う人ではないので、「老後に備えて子どもを育てよ」という古い考えを押し付けたり、現代のさまざまな集団主義者のように、自分や他人の子どもに非現実的で崇高な生きる目的(国の名誉や家族の面目)を求めたりはしませんよね。

でもあなたは子どもの将来を心配するあまり、もし不真面目に育ち、生計を立てられなくなったら?意志が弱く、分別のない人間になったら?競争に敗れて、路頭に迷ったら?などと考え、まだ自分の目が届く小さい(あなたが間に合うと思える)うちに子どもを教育して、意志の強さ、判断力、親しみやすさ、協調性、さらには仕事につながる1つ以上のスキルを身につけさせようとしています。

あなたは「こんなふうに考えるのは正しくないと言うんですか? 母親として、心配せずにいられますか?」と言っていましたね。

心配することが正しくないと言いたいわけではないのです。でも心配すればするほど、事態は深刻になるでしょう。なぜなら、自主学習と他者主導型学習の違いは、「この心配とどう向き合うか」にあらわれるからです。

他者主導型学習では、親や教師などの大人が子どもの人生に起きうる危機や困難をすべて予想し、それに向けて準備できるよう子どもを手助けします。子どもが大人の望んだ結果を出せそうにない時は、先回りして行動を制限します。例えば、「宿題が終わらなかったら、寝てはいけません」「ご飯を食べなかったら、遊んではいけません」という具合に。

ここでは、大人が自分または社会の価値観に従って、宿題は睡眠よりも、食事は遊びよりも重要だと判断しています。子どもを大人が望むとおりに行動させようとするのは、それが子どもにとっていいことだと信じているから。でも、子どもが楽なほうへと流れることも心配です。そのため、大人はご褒美や罰則といった強い圧力の必要性を感じます。