漫画「進撃の巨人」完結で知る担当編集者の秘話

4月9日発売の『別冊少年マガジン』5月号で遂に完結する漫画『進撃の巨人』(出所:講談社)

「誰にも文句を言わせないネームだと思います」

漫画『進撃の巨人』の最終回ネームを作者、諫山創から受け取った際、川窪慎太郎は心に浮かんだ率直な感想を伝えた。連載当初から担当編集を務める川窪と諫山との二人三脚でお互いの人生を懸けて挑んだ作品が、ついに完結を迎える。

「よく描き切ったなって感じです。諫山さんがどう思っているのかはわかりませんが、担当編集者としてやり残したことはない。心残りや、もっとこうできたなど、そんな気持ちは1ミリもないですね。少なくともやれることは全部やった気がします」

4月9日発売『別冊少年マガジン』5月号の表紙(出所:講談社)

『進撃の巨人』は、2009年9月より『別冊少年マガジン』(講談社)で連載中の漫画だ。「壁」の中で暮らす人類が、人を捕食する巨人相手に絶望的な戦いを強いられる「ダークファンタジー」。世界累計発行部数は1億部を突破。アニメや日本国内での実写映画、ビデオゲームなどにも展開を拡げ、ハリウッドでの実写化も決定している。

そんな『進撃の巨人』は、2021年4月9日発売の『別冊少年マガジン』5月号で遂に完結する。

『進撃の巨人』は運命の電話から誕生した

『進撃の巨人』が誕生に至るきっかけは、今から15年前の2006年の夏。諫山からの漫画持ち込みの電話を、講談社に入社したばかりの川窪が取ったことだった。当時、専門学生だった諫山はすでにいくつかの出版社に原稿を見せていたが、どこからも相手にされなかった。

しかし、諫山の原稿を見た川窪は、その可能性を見逃さなかった。

『進撃の巨人』誕生前から漫画家、諫山創氏と二人三脚で歩んできた編集者、川窪慎太郎氏(撮影:梅谷秀司)

「(別冊少年マガジンは)持ち込みの電話がかかってきて、電話を受けた人がそのまま作品を見るスタイルです。(諫山さんの)原稿を見たら情念というか並々ならぬ思いが伝わってきて、次の作品ができたら連絡してほしい、一緒に作品を作っていきたいって話をしました」

講談社は、漫画雑誌ごとに新人向けの賞を主催している。新人漫画家はそこで賞を獲って、初めて連載が検討される。諫山はこの賞を獲得し、川窪と諫山の10年以上に及ぶ付き合いが始まった。この頃、2008年~2009年頃に生まれたアイデアを基に作られた連載ネームが、『進撃の巨人』だった。

共に連載ネームを作る過程で川窪は、諫山の多様なアイデアと感性、作家としての才能、そして作品への手応えを感じていた。

「僕が1個質問をするとそのすべてにちゃんと答えが返ってくるんです。ネームには描かれてないけど、この世界はどういう世界で彼はどんなキャラクターなのかと質問すると、こういうキャラクターで実はこんな設定があって壁の外にはこんな展開があって……と詳細に返ってきました。こんなアイデアを考えられるなんて、と驚かされましたね」

これまでの漫画にない世界観を表現した『進撃の巨人』(出所:講談社)

『進撃の巨人』は、今までにない残酷な世界観と絶望的なシチュエーション、予測不能で衝撃的な展開の数々が魅力だ。物語の冒頭からいくつもちりばめられている謎や伏線は真実を知った後に読むと、最初に読んだときには気づかなかったキャラクターの微妙な表情や目線、行動など驚きの発見が多い。

そんな緻密に計算し尽された独特の漫画を通じて、描きたかったメッセージとは何だろうか。

「諫山さんがとあるインタビューを受けて話していたのは、思春期のときに体験した漫画、ゲーム、小説、映画を見ていてショックを覚え心をえぐられた感覚、それと同じ感覚を、今度は作り手になって受け手に味わわせたいという気持ちが創作活動の原点にある、と。たしかにそれが、『進撃の巨人』の初期にはありました」