漫画「進撃の巨人」完結で知る担当編集者の秘話

クライマックスには、壁を突き破り、超大型巨人が姿を現す。あれは思い出深いですね。60メートルのものを投射するため映像が道路をまたぐんです。道路使用許可が必要で警察に警備をお願いしなければならなくて。街中で60メートルのプロジェクションマッピングをやった作品って、『進撃』くらいじゃないですかね」

唯一、熱望しながらも実現に至っていない企画の構想があるという。

「1/1ジオラマで『進撃』の世界を再現したいです。過去に上野の森美術館で展覧会をやったのですが、そのときにエレンが生まれた街シガンシナ区を1/1ジオラマで再現して、“巨人に踏み潰されて壊れてる建物”や、“屋根から顔をのぞかせている巨人”などをやりたかったのにできなくて。一番やりたいことが、唯一できていないことなんです」

サウジアラビア人にも届いた世界観

川窪は、Twitterで『「進撃の巨人」担当編集者バック』のアカウントを運用し、15万人のフォロワーを抱える。川窪によればフォロワーの7割は外国人だという。『進撃の巨人』は海外22カ国で合計1200万部を売り上げた。世界中でコスプレが楽しまれ、ハリウッドでの実写映画も決定した。YouTubeでアニメを放送すると外国人からのコメントがほとんどだ。

作品が世界に届いていることを肌で実感したエピソードがある。

「サウジアラビアでイベントが開催された際、『進撃の巨人』もステージを持ってやってほしいとオファーがありました。ステージをやったら、おそらくサウジアラビア人だと思うのですが、『進撃の巨人』のアニメの曲を大合唱してるんですよ(笑)。サウジアラビアの人にも届いているんだなと感動しました」

勢いそのままに、2020年12月よりNHK総合にて放送開始となったTVアニメ『進撃の巨人』The Final Seasonが、世界中でシリーズ最高の視聴数を獲得している。2015年に日本でもサービスをスタートしたNetflixなど、動画配信サービスが世界中で拡大しているのも大きな追い風となっているようだ。

日本で生まれたカルチャーの代表としての「漫画」の海外市場の開拓について、川窪はその難しさを感じつつも今、一歩を踏み出そうとしている。

アニメに続き「漫画」でも海外市場の開拓に乗り出す『進撃の巨人』(出所:講談社)

「漫画文化は日本固有のもの、コマ割りや連載形式などかなり珍しい文化です。漫画をそのままの形で世界に出していくのは難しいので、アニメという形で出す。アニメーションはわりと世界共通になっているんです。映像、グッズ、イベント、体験、のような形で世界に出していくのはもっともっとやっていくべきだと思っています。

実際、個人的にアニメの委員会や知り合いに相談して、アメリカなどで『進撃の巨人』の商品をもっと流通させるアイデアを進めようとしている段階です。日本と比べて海外は供給が追いついていないというか、「欲しい、見たい、読みたい、でもどこで買えるの?」という状況があります。

市場は確実にありそうなので、しっかり整理していきたいという気持ちがあります。講談社で、マガジンで、『進撃の巨人』でやれたらいいなと思っています」

時代が変化しても変わらない矜持

『進撃の巨人 4月9日最終回 結末を見届けよ!カウントダウン企画』がネット上で開催され、最終回発売まで毎日、特別コンテンツを配信。3月30日“主人公エレンの誕生日”に諫山から最後の原稿を受け取り、入稿を終えた川窪は「11年7ヵ月お疲れ様!」とTwitterで感謝を綴った。

漫画家志望の専門学生と新人編集者が出会い生みだした物語は、国内で社会現象になり、そして海を越えてハリウッドにまで繋がった。そんな刺激的な日々からひと区切り……するのかと思いきや、感傷に浸る間もなく川窪の『進撃の巨人』の仕事は続くという。