須賀:より具体的に、ご自身がこれまで注目されてきた分野の中で、コロナ禍のこのタイミングで、ついに花開くときがきたと感じていらっしゃるものはありますか?
柳川:花開こうとしているのは、「働き方」だと思います。コロナ禍において多くの人が、物理的にその場所に来なくても働くことができると実感したことは、とても大きかったと思います。やはり、対面で仕事をすることのよさもありますから、パンデミックが収束すれば、会社に出社するスタイルも戻ってくる面もあるでしょうが、多くの人がこんなふうにも働けると実感した経験はとても大きなことだと感じています。
時間と空間にとらわれない働き方というのはもはや当たり前のことになったので、講演のネタにもならなくなりましたね。私としては商売上がったりですが、とてもよいことだと感じています(笑)。
須賀:大きな前進でしたね。柳川さんがいま注目されていることはなんでしょう?
柳川:注目しているのは教育制度の改革です。これは国内の問題であると同時に世界的な潮流でもあり、OECDの方も注目してくださっているのですが、入試はいらないだろうという話をしています。先ほどお話しした「働き方」の話もそうですが、コロナ禍で、多くの大学がオンラインでも授業を行えることがわかりました。オンライン授業には、場所やキャパシティーの制約がありません。これまで入試を行っていた最大の理由は教室の制約があったからで、教室に入る人数を選抜していた訳です。ですが、オンラインによってその制約がなくなれば、全員を入れてしまえばいい。入学したい人を全員入れる代わりに、卒業のハードルを高くすればいいと考えています。
現在の入試制度は、親の収入格差が結果に如実につながっています。親の収入が高い家庭に生まれた子供たちは、質の高い授業を提供する、学費の高い中学校や高校に通いやすく、反対に、親の収入が低い家庭に生まれた子供たちは、質の高い教育機会にアクセスすることが困難になっています。オンラインであれば、誰でもクオリティーの高い授業やレクチャーにアクセスすることが可能になりますから、収入による教育機会の不平等は小さくなるのではないかと思います。
須賀:そのような格差に対応するために公立の学校があると主張される方もいらっしゃいますが、収入によって学校や教育の選択肢が限られてしまう時点でフェアとは言えませんよね。オンライン化し、全員が同じ授業を受けられるようになれば、教育機会へのアクセスの不平等は改善できるかもしれません。
柳川:私は、大学で通信教育課程に進みました。通信教育は、先ほど言ったように、場所のキャパシティーの制約がないので、一般入試に比べれば、それほど厳しい審査がなく、学生をたくさん入れますが、その代わりに卒業がとても難しく、私が通っていた大学の卒業率は3~5%でした。入試改革についてお話ししていることは、私自身、かつて経験したことでもあります。いまの大学生は、入学のためにとても頑張りますが、卒業のためにはあまり頑張りません。「〇〇大出身」ではなく、「〇〇大卒業」に意味があるというふうにしなくてはならないと感じています。