人間も植物も、家庭も企業も、国家も地球も、世の中に存在するほとんどのものは、必ず何かをインプットして、何かをアウトプットする「システム」を持っている。つねになんらかの動きがあり、「動的」であるのが世界だ。それゆえ、図で考える際にも動的な視点は欠かせない。
ここで威力を発揮するのが、直接的にモノや情報の動きを扱うために使える「矢バネ」の図である。実際に図を見ながら、製品を作るプロセスについて、その構造変化を捉えてみよう。
時計や家電などを作るにあたって、インプットするものを「部品100個」としよう。かつては、それを職人がひとつひとつ組み立てる手作業を経て、「完成品」としてアウトプットされていた。
ところがこのプロセスでは、途中でトラブルやミスが起きると全工程がストップしたり、部品90個目まで組み立てたのに1からやり直さなければならなくなる場合もあり、非効率でもある。
そこで、「部品100個」を「20個の部品からなる5つのモジュール」に分けてみる。すると、その5つのモジュールを順次経てゆけば「完成品」が仕上がることになり、1つのミスやトラブルで全行程がストップしたり、1からやり直すという頻度も大幅に減る。
さらに、モジュールごとに作りだめもできるし、分業や外注も可能だという発想も浮かぶ。この「矢バネ」の構造の変化が、20世紀初頭に起きた大量生産の工業化革命なのだ。
時代が進むと、さらに大きな変化が起きる。
多くの人が、ひとつの同じ商品ではなく、それぞれのニーズにあった異なる商品を求めるようになったのだ。例えば、家庭用3Dプリンターが普及すると、インプットは「部品100個」ではなくなり、「原材料のインク」になる。そして「矢バネ」は「プリント」だけになる。
製品は工場で作られるのではなく、家庭でプリントされるようになるわけだ。これに沿って、物流や製品の保管の必要性なども変化し、それは企業や工場、倉庫などの形態の変化にも関わってゆく。「矢バネ」が変わると、根幹が変わるのだ。
「矢バネ」は、動きを捉えるのに適しており、図をいじってみることで構造全体に対する理解を深め、問題を解決したり、新しい発想を生み出したりする武器に使える。その際に役立つのが次の3つの視点だ。