「国民皆保険」が崩壊すると何が起こるのか

国民の不満はどんどん高まっていきます。それでもこの国は「石油」という財源がありますから、公的病院にもお金をかけて医療水準を上げようと頑張っていますが、普通の国はそんなことはできません。公的サービスは医師の確保もままならない、設備投資もできない。ますます金が回らなくなって、貧相なサービスになる。でも長い待機列はなくならない。

教育の世界でも「階層化」

教育の世界でも同じことが起きました。かつてのこの国の教育は、一律平等無料の義務教育を提供していました。地区ごとに小学校中学校があり、各学校は通し番号「第〇〇小学校」がつけられていました。どこに行っても同じカリキュラム。同じ教科書でした。

今や、金持ちは私立学校に行き、もっと金持ちは海外の学校に行かせます。私立学校・金持ち学校は(小学校から)ロシア語や英語で教育します。優秀な教員は高給で私立学校に引き抜かれていきます。

他方で、公立学校に残った教員は、午後から学校で「補習」と称する私塾を開いて生徒から補習代を取って、自分の生活費の足しにする。政府も教員の給与を十分引き上げることができないので事実上それを黙認せざるをえない。そして、補習を受けないと事実上、上の学校には進学できない。

ひるがえって、日本の公的医療保険制度はどうでしょうか。「国民皆保険」ですべての国民が公的医療保障を受けられる。「公的サービス」でほぼすべての医療がカバーされ、最先端の医療も保険で受けられる。新薬も承認されればほぼすべて保険収載されるし新医療技術も保険点数がつく。

「フリーアクセス」が保障され、医療機関を自分で選ぶことができて費用は公定価格(診療報酬で医療の価格は統制されている)。すなわち、

・「医療の進歩に見合った高い水準の医療サービス」が
・「公的費用」で賄われて(=保険のきかない医療が〈ほとんど〉なくて)
・「所得の多寡に関係なく」「ニーズに応じた平等な医療」が
・「自分が選択した医療機関」で受けられる

日本の医療は「奇跡の制度」

しかも、世界一の高齢国なのに国民医療費の水準はアメリカの半分、西欧諸国並みかそれ以下。こんな国はありません。日本の公的医療保険制度は、まさに奇跡みたいなものです。

もちろん日本の医療制度にもいろんな問題がありますし、大きな困難に直面していることも事実です。改革すべきことはたくさんあります。

壊すのはたぶん簡単です。でも、壊したらもう二度とこんな制度はつくれません。つまり、このシステムをこれからも守っていくにはどうすればいいか。物事は、そういうふうに考えなければいけない、と私は思います。