「伊能忠敬の働き方」が主流になる老いなき世界

佐々木:これまでの一般的な生き方は、大学で4~6年間学び、その資産を使って職に就き、同じ仕事を30~40年間続けるというものでしたよね。しかし、健康寿命が長くなれば、最初に学んだことが無意味化する可能性が高くなります。今後は働きながら学び、学びながら働くというグラデーションを繰り返しながら人生を続けることになるでしょう。

僕自身、大学で1つのことを学んでキャリアを始めて、そして、1度学び直してから、いまの仕事に就いていますが、120歳までとなると、これからまだ5~6サイクルは追加で学び直す必要があるのかなと想像しました。

岡橋:そこを「あと5~6回も、また学習しなければならない」と考えるとつらくなりますが、長い人生だからこそ得られる自由があると考えて楽しむこともできますね。

コロナ禍でも、最初はずっと家にいなければならないとストレスに感じていたけど、リモートワークが普通になると、新しいライフスタイルやワークスタイルも生まれました。

訪れる変化にどう対応するか

佐々木:能動的に自分のキャリアを変える場合と、世の中の大災厄によって強制的に変えなければならなくなる場合とがありますね。今回は新型コロナですが、今後は気候変動の影響も受けるでしょう。毎年のように山火事や干ばつが起きて、もう住めなくなると言われている地域も世界にはあります。

佐々木:人生が長くなれば、自分が考えていたことを変えざるをえない事態に直面する回数も増える。10回以上ジョブチェンジするということも、珍しくなくなるのではないでしょうか。いまある仕事の半分は、あと数十年でなくなるとも言われていますし、僕たちのやっている「ニュースレターを配信する」という仕事もなくなるかもしれないし……。

宮本裕人(みやもと ゆうと)/LOBSTERRメンバー、フリーランス編集者。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修了後、『WIRED』日本版エディターを経て2017年に独立(写真:橋本裕貴)

岡橋:でも、いま僕たちがやっている仕事も、そもそも10年前にはなかったものですよ。

佐々木:そうですね。 iPhoneも2007年までは存在しなかったし、アプリ開発者という職業もなかった。それが今や数千万の仕事を生み出している。仕事がなくなる以上のスピードで、仕事が生み出されてもいるわけですよね。

宮本:一方で、ずっと変わらず続いていく仕事もあっていいと僕は思います。僕の住む町には駅前に古いせんべい屋があるのですが、お店のおばあちゃんに聞くと、この町で70年、それ以前に別の場所にあった時代も入れると100年以上続いているのだそうです。駅周辺が再開発されても、そのせんべい屋だけは変わらずに残っている。そしてそれが、町のアイデンティティーの1つになっているようにも見えるんです。

佐々木:「これから長生きするものは、いままで長生きしてきたものである」という余命のパラドックスを思い出しました。せんべい屋は長く続いてきた職業だからこれからも続く。しかし、アプリケーションデベロッパーのような新しい職業は短命かもしれません。個別の商品にも言えそうですね。コンビニにはたくさんの商品があるけれど、「かっぱえびせん」のようにずっとなくならない商品もある。

人生をスローダウンする

岡橋:変化は激しく、回転は速くなるけど、変わらないものもその中にはあるということですね。そうなると、職業は変わるけど、自分が何をすればいいのか悩むという問題は変わらないのかもしれません。寿命が長くなる分、生き急がないようにする必要もあるかもしれない。

佐々木:アメリカではサバティカル休暇を取る人が多いですよね。10年間働いて、1年間休んで充電するというような。ライフスパン時代には、日本にもそんな文化ができて、スローダウンできるのではないかな。