「地頭力を鍛える」ためのフェルミ推定の活用法

フェルミ推定のような思考が求められるのは、仕事の「川上」つまり、事業や商品・サービスの概要やコンセプトを考えるような状況で、何らかの意思決定をするような場面においてです。

フェルミ推定的な考え方は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれるICT化の進展やVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)に伴う商品・サービスやビジネスモデルの抜本的かつ迅速な変化の中で、重要性が高まってきています。そこでは、完璧主義よりも、仮説検証を繰り返す「プロトタイプ型」の仕事のやり方が有効である場面が多いのです。

さらに、IoTという「すべてのものがネットにつながる」世界がもたらしている変化があります。そこでは、これまで荒唐無稽な質問だった「世界に信号機はいくつあるか?」「世界にコンセントはいくつあるか?」といった問題が、現実的に「それらすべてにセンサーがついたら、どのようなビジネスにつながるのか?」といった問題になっていくからです。

従来、思考のトレーニングツールという意味合いの強かったフェルミ推定が、現実的にも役立つ場面が増えてきているのです。

フェルミ推定の基本プロセスは、「アプローチの設定」→「モデルの分解」→「計算の実行」→「現実性の検証」です。このプロセスには、地頭力を駆使する場面が随所にあり、3つの思考力を鍛える地頭力トレーニングのツールとなります。

例題:「日本全国の道路の合計距離は何kmか?」

まずはこの問題にどのように対処するか、そのポイントを3点示します。

1. すぐに検索に頼るのではなく、知っている知識や情報だけでなんとかする
2. 正確性よりも「ざっくりと全体像を描く」ことを意識する
3. それでも「算出根拠」を明確にする

ざっくりと解法の一例を示せば、以下のようなやり方が考えられます。

・日本の総面積を推定し、それを(道路の密度が違う)都会と郊外に分ける(知っていればそのまま使い、知らなければ、東京―大阪間など知っている距離から日本を長方形で近似することで算出する。さらに東京―大阪間を知らなければ、知っている身近な区間の距離や新幹線の速度と時間等から・・・・・・と、とにかく粘って何とか算出する)
・単位面積(例えば1平方キロ)当たりの道路の長さを仮定する(例えば郊外は1?単位、都会は100m単位の「格子状」とする)
・上記より実際の数値を算出する
(出所:筆者作成)

このフェルミ推定をする際に「仮説思考力」「フレームワーク思考力」「抽象化思考力」の3つの思考力が駆使されているのです。

「結論から考える」仮説思考力

仮説思考とは、以下のような思考パターンのことです。

・いまある情報だけで最も可能性の高い結論(仮説)を想定し、
・つねにそれを最終目的地として強く意識して、
・情報の精度を上げながら検証を繰り返して仮説を修正しつつ最終結論に至る

では、フェルミ推定でいかに仮説思考力を鍛えるか。

ポイントとなるのは、以下の3点です。

・少ない情報からでも仮説を構築する姿勢
・前提条件を設定して先に進む力
・時間を決めてとにかく結論を出す力

まず、「情報が少ないなりに結果を算出する」と強く意識することが重要であり、ここで「情報が少ないから算出は難しい」と考えたら、その瞬間にゲームオーバーです。

「日本全国の道路の合計距離は何kmか?」をフェルミ推定するとしたら、例えば、「東京―大阪間は500kmとする」「都会では道路は100mピッチの格子状とする」……という仮説の立て方があるのは先述のとおりです。