フェルミ推定のような思考が求められるのは、仕事の「川上」つまり、事業や商品・サービスの概要やコンセプトを考えるような状況で、何らかの意思決定をするような場面においてです。
フェルミ推定的な考え方は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれるICT化の進展やVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)に伴う商品・サービスやビジネスモデルの抜本的かつ迅速な変化の中で、重要性が高まってきています。そこでは、完璧主義よりも、仮説検証を繰り返す「プロトタイプ型」の仕事のやり方が有効である場面が多いのです。
さらに、IoTという「すべてのものがネットにつながる」世界がもたらしている変化があります。そこでは、これまで荒唐無稽な質問だった「世界に信号機はいくつあるか?」「世界にコンセントはいくつあるか?」といった問題が、現実的に「それらすべてにセンサーがついたら、どのようなビジネスにつながるのか?」といった問題になっていくからです。
従来、思考のトレーニングツールという意味合いの強かったフェルミ推定が、現実的にも役立つ場面が増えてきているのです。
フェルミ推定の基本プロセスは、「アプローチの設定」→「モデルの分解」→「計算の実行」→「現実性の検証」です。このプロセスには、地頭力を駆使する場面が随所にあり、3つの思考力を鍛える地頭力トレーニングのツールとなります。
例題:「日本全国の道路の合計距離は何kmか?」
まずはこの問題にどのように対処するか、そのポイントを3点示します。
ざっくりと解法の一例を示せば、以下のようなやり方が考えられます。
このフェルミ推定をする際に「仮説思考力」「フレームワーク思考力」「抽象化思考力」の3つの思考力が駆使されているのです。
仮説思考とは、以下のような思考パターンのことです。
では、フェルミ推定でいかに仮説思考力を鍛えるか。
ポイントとなるのは、以下の3点です。
まず、「情報が少ないなりに結果を算出する」と強く意識することが重要であり、ここで「情報が少ないから算出は難しい」と考えたら、その瞬間にゲームオーバーです。
「日本全国の道路の合計距離は何kmか?」をフェルミ推定するとしたら、例えば、「東京―大阪間は500kmとする」「都会では道路は100mピッチの格子状とする」……という仮説の立て方があるのは先述のとおりです。