たった2割の「できる人」だけが知る発想のコツ

しかし、コアアイデアは、前提を覆して抜本的な変化を導く発想なので、選択肢の中に答えはありません。問題を再設計することから始めなくてはならない。「ちょっと待って、本当にカラコンって10代の子しか望んでないんだっけ? ちゃんと見つめ直してみよう」と、カラコンの本質的価値を考えて、どうやったら抜本的なかたちでマーケットが広がるかを考え抜く。

「あらゆる前提を1回疑い直す癖」をつける

──どうすればそうした思考法が身につくのでしょうか。

三浦:1つの方法は「前提をぶっ壊す」を前提とすること。例えば広告を例にいうなら、クライアントから、「このお茶を予算10億円でテレビCMでお年寄り向けに売ってくれ」と言われたら、「わかりました、じゃあ、どんないいCMにしますか?」ではなく、まず前提を疑ってみる。

予算は本当に10億円でいいのか。プロダクトの広告自体を疑って、お~いお茶は有名でもうこれ以上広告の余地がないから、むしろ伊藤園という企業のことを広告したほうが効果的かもしれない、お茶を飲む文化についての広告をつくったほうが面白いかもしれない。あるいはターゲットは本当にお年寄りでいいのだろうか。若い人や海外の人に売ったほうがもっとよろこばれるかもしれないといった具合に、「あらゆる前提を1回疑い直す癖」をつける。これがコアアイデアを生む肝です。

これは業種を問わず、あらゆる仕事で使えるクリエイティブな思考法の1つです。

──脳がシャッフルされるような思考法ですね。

三浦:もう1つ具体例をご紹介しましょう。集英社の『週刊少年ジャンプ』創刊50周年のキャンペーンで、『ジャンプ展』の広告をする仕事がありました。僕も『ジャンプ』は大好きだったのでよろこんで引き受けたのですが、このときは予算が非常に限られていた。普通に考えたら、『ジャンプ』の裏表紙の告知広告を一生懸命つくるくらいしかやれることがない。

そこで、『ジャンプ展』の広告をつくるという前提をひっくり返して、東京メトロと組んで『ジャンプ』のキャラクターを使わせてあげるから、東京メトロの全部の駅の紹介をするという企画を考えついた。

つまり『ジャンプ展』の広告をつくるのではなく、東京の広告を『ジャンプ』を使ってやるというコアアイデアです。キャラクターを使って各駅を紹介する『ジャンプwith東京メトロスタンプラリー』は、大反響を呼びました。東京メトロにとってもうれしいし、『ジャンプ』にしてみたら無料でいろんな駅に広告を出せる。このように1点突破のコアアイデアがさまざまな現実の困難を乗り越えさせる突破口となります。

──チームのブレストでよいアイデアを生むコツはあるのでしょうか?

三浦:実は複数名でブレストしても、本当にものごとをひっくり返すようなアイデアはなかなか出ません。ブレストは他人の目がけっこう気になりますし、生活者としての自分の欲望に立ち返って、本当にそれを欲しているのか面白いと思っているのか深く内省しないと、よいアイデアは生まれないからです。

集合知よりも圧倒的に大切なのは、個の覚悟です。それを背負い切る覚悟や、絶対に成し遂げたい欲望がない人間の思いつきなんて100個あったって200個あったって意味がない。「俺は絶対にこれをやり遂げる」という1人がいて、「この案がいいかどうかはわからないけど、私はこの人を信じる」というチーム・組織があってはじめて現実は動いていく。

僕がコアアイデアを生む思考法のみならず、企画を形にするチームビルディングを重視しているのは、クリエイティブは「実装」してこそ社会のなかで意味をもつからです。

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