たった2割の「できる人」だけが知る発想のコツ

数々の話題作を放ってきた広告界の異端児・三浦崇宏さんに、これからの仕事力について語ってもらいました(撮影:山元茂樹)
「コアアイデアを生む力が身につくと、仕事も人生も変わる」──そう語るのは、新著『超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす』を上梓したクリエイティブディレクターの三浦崇宏さん。「朝日新聞社×左ききのエレン Powerd by JINS」(2020年、新聞広告賞)など、数々の話題作を放ってきた広告界の異端児にこれからの仕事力について語ってもらった。

What・HowからWhy・Whereが重要に

──なぜ“コアアイデア”が大切なんでしょうか。

三浦:コアアイデアとは、ものごとの本質を見抜いたうえで〈変化のきっかけ〉をつくり出す、いちばん核心となる考えを指します。オセロの盤面をすべてひっくり返すような、それまでサッカーだと思っていたフィールドをアメフトに変えるような、ルールを更新するアイデアといってもいい。

いまなぜそういう革新的な発想が重要かというと、直線的な経済成長は見込めないうえに、コロナ禍で先行きへの不透明感がさらに強まった時代において、商品でもサービスでも、新しいマーケットを見つけたり、別の社会的な役割を発見することで新しい価値をつくり出す力が生き残りを決めるからです。

従来ビジネスのセオリーでは、何をどうやって売るか、WhatとHowが大事だと言われてきました。でもここにきて、Why、Whereが重要味をおびている。何のためにこの商品はあるのか、なぜその事業は社会に存在するのか、そして、それをどこで売るのかという視点です。置き場所ひとつで商品の価値がまったく変わってきますから。

──具体的にはどういうことでしょう。

三浦:僕たちが商品開発から関わった例で説明すると、10月22日にアイウェアブランドのJINSが発売した大人向けのカラーコンタクトレンズ「JINS 1DAY COLOR」がとても好評です。

もともとカラコンは10~20代女子の利用が主流で、ドン・キホーテなどの量販店に行くと、変身グッズのようなコーナーに置いてありました。大人の女性たちに聞き取り調査をしてみると、「オシャレとして使ってみたいけど、派手すぎる」という。

だったら、カラコンを若い人向けの市場ではなく、大人のマーケットで売ったらどうだろう──「カラコンは変身から美容へ」というコアアイデアをそこで打ち出しました。若い人の変身ではなく、大人の女性がより美しくなるための美容アイテムとしてのカラコンを、品質が信頼できるアイウェアブランドが開発し、発売した。Whereを変えるコアアイデアによって、新しいマーケットが開かれた好例です。

こうした新しい価値を生み出すクリエイティブな力が、いま世界中のビジネスシーンにおいて切実に求められています。

──三浦さんは、日本のビジネスパーソンはコアアイデアを生み出せる2割とそうでない8割に分離してしていると指摘しています。

三浦:長年クリエイティブの現場で働いてきた実感でいえるのは、コアアイデアを生み出せる人とそうでない人でくっきり分かれます。多くの会社を見てきて、約8割の人がアイデアを生産できず、優秀なビジネスパーソンでも発想や企画力に乏しいという場合が多い。

その要因の1つは、日本の学校教育で、つねにどこかに正解が用意されているABCのどれかを選ぶような訓練ばかりやってきた点にあると思います。著述家の山口周さんが「残念ながら日本で高校までに学ぶすべてのことは、人間よりAIが得意なことだ」と指摘していますが、そのとおりだと思います。

先のカラコンの売り上げを伸ばすという課題でいうなら、10代の女の子たちという市場は見えてるので「じゃあローラとタイアップする? 乃木坂、それとも人気YouTuber?」「アンケート調査したら、いまYouTuberの〇〇が人気だから、彼女にしよう」とABCの中から“正解”を見つけるのが優等生です。