「あれがやめられない」と悩む人を救う対処法

スマホ、ネットサーフィン、タバコ……注意散漫のわなを避けるには? (写真:taa22、ljubaphoto、 Wako Megumi/iStock)
メールやSNS、オンラインゲームなど、私たちの周りは、集中力を乱すものであふれている。本来、仕事に集中しなければならないのに、ついメールやSNSを見たり、グーグルで検索したりしてしまう。
だが、こうした気晴らし行為を無理に禁止してしまうと、逆効果になることが研究でわかっている。欲求に正面から立ち向かい断ち切ろうとするのではなく、脳をだましながら欲求をいなしていくのがコツだ。「彼女が歩数計に依存して歩きまくった真の理由」(2020年8月27日配信)に続いて、『最強の集中力』から一部を抜粋・再編集してお届けする。

衝動を抑え込むのではなく

シアトルにあるフレッドハッチンソンがん研究所の心理学者ジョナサン・ブリッカーは、行動を変えるとがんになるリスクが下がることを証明してきた。「ほとんどの人は、がんを行動の問題とは考えていないが、禁煙や減量、定期的な運動のように、がんになるリスクを減らし、長く質のよい人生を送るためにできることは必ずある」とブリッカーは書いている。

ブリッカーのアプローチの1つに、想像力を鍛えて物事を別の角度から見る、というものがある。認知行動療法(ACT)の一環としてある技法を学べば、有害な行動につながりがちな不快感や不満が和らぐことを明らかにした。

ブリッカーは禁煙に焦点を絞って、インターネットでACTを提供するアプリを開発した。主な利用対象は禁煙を目指す人々だが、このプログラムの原理によってさまざまな衝動を効果的に抑えられることが、証明されてきた。

このセラピーのカギになるのは、自分が何を渇望しているかを認識して受け入れ、その渇望を健康的に処理することだ。ACTでは、衝動を抑え込むのではなく、一歩離れて、衝動の原因に気づき、観察し、最終的にそれが自然に消えることを目指す。しかし、なぜ衝動と真っ向から戦わないのか。なぜ、「ノー」と言うだけではだめなのだろうか。

ロシアの文豪ドストエフスキーは1863年に、「シロクマのことを考えないという難題を自分に課せば、シロクマが絶えず頭に浮かんでくるだろう」と書いた。その124年後、社会心理学者ダニエル・ウェグナーは、ドストエフスキーの主張が正しいかどうか実験した。

被験者は、5分間シロクマのことを考えないように、と指示された。すると彼らは平均で1分間に1回、シロクマのことを考えた。まさにドストエフスキーが予言したとおりだ。

しかし、ウェグナーの実験はそれだけでは終わらなかった。同じグループの被験者と最初の実験には参加していない別のグループに、今度はシロクマのことを思い浮かべるよう指示すると、後者より前者のほうが、シロクマのことを思い浮かべる回数がずっと多かった。「この結果は、最初の5分間に考えないようにしたせいで、心の中でリバウンドが起きて、より頻繁に考えるようになったことを示している」と、ウェグナーはモニター・オン・サイコロジー誌の論文に書き、のちにこの傾向を「皮肉過程理論」と名づけ、何かを考えないようにするのが難しい理由を説明した。

この理論が「皮肉」と呼ばれるのは、欲求をいったん抑制し、のちにそれを解くことで、その欲求がより多くの報酬をもたらすようになり、習慣化するからだ。

欲求を抑え込み、反すうし、結局は屈する、というサイクルを繰り返すと、そのサイクルは永続的なものになる。望ましくない習慣の多くは、このサイクルに駆り立てられている。