ブリッカーは次に、その感覚を掘り下げることを勧める。例えば、注意散漫の前に指がぴくぴく動くとか、子どもといるときに仕事について考えると胸がざわつくといった感覚の高まりや鎮静をどのように感じるか。ブリッカーは、衝動に突き動かされる前に、その感覚をしっかり受け止めることを勧める。
この手法の効果は、禁煙に関する研究で実証されている。自分の渇望に気づき、それを掘り下げることを学んだ被験者が禁煙に成功する確率は、アメリカ肺協会の最も成功した禁煙プログラムの2倍だった。
ブリッカーがとくに気に入っているのは、「小川を流れる葉」という手法だ。本来望まないことをやろうと誘惑する不快な何かを感じたときは、「静かに流れる小川のほとりにあなたが座っていて、目の前を何枚もの木の葉が流れている光景を思い描こう。心の中にある考えの1つひとつを、1枚1枚の葉に載せなさい。それは思い出かもしれないし、言葉か、心配事か、イメージかもしれない。そうしたら、葉の1枚1枚が流れに乗ってくるくると回りながら遠ざかっていくのを、座ったまま、じっと見届けよう」。
境界の瞬間とは、1つの行動から別の行動へと移る「ちょっとの間」のことだ。車の運転中、信号が変わるのを待つ「ちょっとの間」、スマホを手にとり、信号が青になった後も、運転しながらまだスマホを見ていたという経験はないだろうか。あるいは、タブレットでブラウザを開いたものの、読み込みの遅さにいらついて、「ちょっとの間」だけと、ほかのサイトを開いたことはないだろうか。
この注意散漫のわなを避けるには、「10分間ルール」が効果的だ。私はほかにすべきことを思いつかなくて、気を紛らわせるためにスマホのメールをチェックしたくなると、「それは悪いことではないが、今はそのときではない」と自分に言い聞かせる。そして何もしないで、10分過ぎるのを待つ。この方法は、執筆の手を止めて検索するとか、退屈なときにジャンクフードを食べるとか、「疲れすぎて眠れない」ときにネットフリックスの番組の続きを見るといった、あらゆる注意散漫を防ぐ助けになる。
このルールによって、行動心理学者が「衝動サーフィン」と呼ぶ手法を実行する時間が得られる。衝動を感じたら、それに注意を向け、追い払ったり、従ったりするのではなく、サーフィンをするようにその波を乗りこなし、衝動が鎮まるのを待つ。衝動サーフィンや、衝動に注意を向けるほかの方法によって、喫煙者が吸うタバコの本数を減らせることが対照実験で立証されている。10分間、衝動サーフィンをしたのちに、まだその行動をしたいのであれば、してもよいが、そうなることはめったにない。境界の瞬間は過ぎ、私たちは本当にやりたかったことに取り組める。
衝動サーフィンや、小川を流れる葉に渇望を乗せる方法は、メンタルスキルを高めるための訓練であり、注意散漫を避ける助けになる。これらの方法は私たちの心を修復し、何かに反応するのではなく掘り下げることで、内部誘因から逃れられるようにする。ガーディアン紙の記者、オリバー・バークマンが記事に書いたように、「興味深いことに、否定的な感情に穏やかに注意を向けると、それらは消え、肯定的な感情が育っていく」。
(第3回に続く、近日公開予定)