歴史が苦手な人は学ぶ面白さの本質を知らない

尾原和啓(おばら・かずひろ)/IT批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのi モード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグル、楽天の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任(撮影:干川修)

尾原:国がなくなってしまったら、虎の子の技術を隠しておいてもしょうがないから、それをくれてやってでも、仲間を集めて兵隊を増やすというのは、すごくシンプルな構造ですね。

もっと大事なことは、人間の脳ミソが1万年変わっていないとすると、人間がどんな欲望を持ち、何を怖がって、どういうときに何をしたがる生き物なのかというベースは、昔も今もそれほど変わらないことになる。すると、何かが起こったときはこうなる、という前提条件とリアクションの組み合わせがわかっていれば、自分の身にその「何か」が起こったときにも、どんなふうに行動したらいいか、知識として蓄積できることになります。

出口:時々歴史は文科系の学問だから、民族の数だけ解釈があるなどという人がいるのですが、僕が知る限りは、グローバルに見たらそういう意見はほとんどなくて、歴史はやっぱり科学なんです。

文献だけではわからないことは、考古学の力を借りたり、放射性同位元素で年代を測定したり、花粉分析で気温を再現したりして、初めてよくわかる総合科学です。過去の出来事を再現するのは無理にしても、そこに近づいていこうとする学問が歴史ですよね。流行作家が勝手に解釈して物語をつくるのは自由ですが、解釈次第で歴史は変わるというのはまったく違う。それは学問ではないのです。

尾原:登場人物が2人しかいない場面で、まるでその場にいたかのようにセリフを書くのは、作家の「創作」ですよね(笑)。

出口:歴史は科学だし、エビデンスを積み上げて何が起こったかという真実に近づいていこうとする学問なので、物理学も歴史も同じだという気がしています。

尾原:世の中の現象はいろんなことの組み合わせで起こっているけど、その中で、いちばん影響しやすい法則を取り出せば、ある程度、未来を予測できるというのが物理学です。例えば、ロケットを飛ばして宇宙に行くには、100とか200の膨大な現象を成り立たせる法則のうち、とりあえずこの5つを再現できれば、人間は月に行けるに違いない。その5つの大きな法則を導き出すのが物理学で、それは歴史も同じですよね。

出口:そうです。ありとあらゆる学問には、そういう共通の土俵があると思いますし、エビデンスベースで人間は考えていくしかないなと。

結局は生き残ったものがえらい

尾原:ここまでのお話をまとめると、ビジネスだろうが生命だろうが、結局は生き残ったものが偉い。つまり、運やタイミングに左右されてしまうのはどうしようもないけれど、過去の歴史を学んでおけば、ある程度、運やタイミングが求められる現象を法則化することができる。それを知ることで、次の波はどこに起きやすいか、考えられるようになるし、それが見えたときにどう動けば運を手繰り寄せられるかも、わかりやすくなる。

出口:ヒントは得られますよね。歴史というのは、いろんな人々が興っては滅んでいく物語で、王朝なら王朝が、企業なら企業が興っては滅んでいく。おもしろいのは、滅んでいく場合と、新しく興る場合の法則のようなものがあって、滅んでいく場合は、簡単にいえば、世の中の流れに取り残されるグループが滅んでいくのです。