いまなお変革が進むファミリーマート。リーダーたる澤田が強く意識していたことがある。それは、現場第一主義であり、加盟店起点だ。
「加盟店起点は、当たり前のことなんです。1万数千もの店舗が、24時間、365日、100円、200円という売り上げをつくってくださることで、ファミリーマートは成り立っているからです」
ファミリーマートは、本部があるから成り立っているのではない。店舗があるから成り立っているということだ。
「加盟店さんがセンターなんです。心からそう思っている。ファミリーマートでは、どこを起点に発想するか、です。これは間違いなく変わったと思います」
ファミリーマート全体では、年間売上高は3兆円規模になる。仕入れている金額は、実に兆円単位だ。取引先である大手飲料メーカーからは、1社だけで700億円以上になる会社もある。
「本部にいると、ともすれば勘違いしてしまう危険があるんです。自分が大きなビジネスをしているような気分になって、偉そうに振る舞ったりする人間が現れる。小売りには、そういうリスクがあるんです」
澤田が現場での研修を受けてから、役員も続々と現場で仕事を経験するようになった。本部の社員も、現場が忙しい時期には積極的に駆けつけるようになった。
「何十社もの経営に携わって、失敗もしてきました。社長でござい、なんてわかったようなふりをして指示を出したって、誰も動かないですよ。そんなことより、現場を理解して、吐くくらい仕事をする。失敗してからは、ずっとそうしてきました。それがリーダーの仕事です」
澤田には、ユニクロでの強烈な原体験があった。売上高が400億円から4000億円規模の会社になるプロセスで、極めてわかりやすい大きな変化があったのだ。社長の柳井以外の役員が全員、入れ替わっていたのである。
「僕がユニクロに入ったときの役員は全員、退任されたんです。柳井さん以外。それから、柳井さんが目指す方向性を、各現場でリーダーとして実現できる人材が役員となりました」
企業のステージが変わっていくとき、経営陣も変わっていかなければいけないのだ。リーダーがそれを率先する。だから、いまのファミリーマートの役員は、猛烈に仕事をしていると澤田は語る。
「僕から圧倒的にやるしかないんですよ。全社員のなかで、僕がいちばん激しく働く、ということです。じゃなかったら、お前、言ってるだけで何もやってないじゃないか、と言われます。それでは、誰も言うことなんて聞かない」
ファミリーマートの改革は、まだまだ途上だ、と澤田は語る。コロナという逆風も加わったなか、どう変わっていくのか。ますます改革の難度は高まっている。だが、澤田の根底を貫いてきたのは、「逃げない」スピリットだ。その職業人生はまさに「挑戦者」ともいえるものだった。
前回の記事『父親の葬儀で知った「人は何のために働くのか」』に書いたように、澤田は伊藤忠商事で社長に直訴の手紙まで書いた。柳井正という経営者とともにユニクロを全国区にし、アメリカの巨大資本と組んで日本最大級のスーパー再建に挑もうとした。さらに自ら起業し、過去になかった業態に取り組んだ。
そしてコンビニという日本の社会を支える企業体、20万人を擁する巨大ビジネスの変革にいままた、挑んでいる。どうしても小売業をやりたい、と伊藤忠を離れてから20年。歳月の分だけ、「天命」への思いは深い。
そんな澤田の挑戦者スピリットは、いまやファミリーマートの社員はもちろん、全国の加盟店ネットワークにも広がってきている。
日本企業でいま、最も問われているのは、新たなチャレンジであり、イノベーションだ。そうでなければ、何も変わらない。何も動いていかない。新しい世界は生まれない。そんななか、社長はもちろん、社員、さらには加盟店のオーナーや店舗のスタッフも、変革の「挑戦者」だと答えられる会社は、間違いなく強い。