1日300斤売れる「ねこねこ食パン」誕生の裏側

2018年に合併したパステルは、先方から合併の依頼が来た。パステルは東京に進出し、なめらかプリンのブームを作った人気ブランド。しかし、新機軸を打ち出せないまま、20年の間に徐々に売り上げが低下していた。

「パステルは3~4年赤字が続いていました。赤字事業を吸収するからには、初月から黒字化しなければ、と半年から1年間じっくり考えました」と田島社長。

初月から黒字化できたのは、「コスト削減と売り上げアップのプランを大事にし、20~30個の改善ポイントをやり切ったからと思います。例えば中間管理職をなるべく少なくしました。中間管理職が多いと意思決定のスピードも実行の質も落ち、現場のモチベーションも下がりがちです。

また、原材料費については入札を行いました。パステル事業を吸収することで、オールハーツ全体での使用量も増えるため、いいものをより安く、という形で仕入れることでコストを一気に下げました」と話す。

オールハーツ・カンパニーとしての目標は、「ネスレみたいな世界一の食の企業を作ること」と言う田島社長。店を始めたばかりの頃は、疲弊するほど労働時間が長く忙しかった。小さい店でその問題を解決するのは難しい。そのために規模拡大を目指した。

5月には東京・自由が丘に「ねこねこチーズケーキ」の店を出した。チーズケーキは1個1800円(写真:オールハーツ・カンパニー提供)

現在、8ブランドで社員は500人、パート・アルバイトを入れると3000人の企業に成長。

福利厚生を充実させ、安定的にボーナスを払えるようになった。有給消化率も、業界の中ではかなり良好と言えるほど伸びている。

ねこねこ食パンは、堅実経営を続けて合併先から経営ノウハウを学んだ同社が、久しぶりにゼロから立ち上げた商品なのである。

ロイヤルティー・加盟金負担少なく加盟できるように

そこへ始まったコロナ禍の危機は、むしろ出店を加速させることで乗り切ろうとしている。それだけでなく、飲食業の仲間が苦しんでいるのを見て、緊急対応としてロイヤルティーや加盟金負担が少なく加盟できる形を作り、ねこねこファクトリーへの業態チェンジを提案したところ、すでに数社から引き合いがあるという。

会社を大きくすることで、顧客や従業員とその家族、取引先の幸せを目指してきた同社は、飲食業の仲間も助けようとしている。

コロナ禍で、厳しい環境に置かれた企業は多い。そのために、就職内定が取り消された学生、首切りにあった非正規雇用の人や育休切りにあった人がたくさん出ている。しかし、新型コロナウイルスがいくら猛威を振るっても、永久に続くわけではない。遅かれ早かれワクチンや薬もできるし、過去の感染症でもそうだったように終息する時期は来る。

その遠くない将来のために、今は準備するときだ。経済を再生させるのは人である。今まで貢献してくれた人たち、技能がある人たち、やる気のある人たちを今、守る方策を講じる企業は、その後のポテンシャルが高いのではないだろうか。