環境のせいにする人は自分が見えていない

楠木:わかりやすいなあ(笑)。筒香選手ばっかりは思いどおりにならない(笑)。3年目まで順風満帆。夢いっぱいな中で、避けられない環境要因が降りかかってきた。仕方がないことですが、ショックでしたでしょうね。

高森:横浜高校から入団する、地元横浜のスターでドラフト1位。当時、ベイスターズのサードは村田(修一)さんというスターがいましたから、使うとしたらファースト。

当時の僕は、ファーストだったんです。勝てっこないってわかっちゃいるんですけど、それを認めるわけにもいかないんで、相当な危機感を持って、めちゃくちゃ練習しました。

楠木:やっぱり、筒香さんっていうのは相当すごいんでしょうね。天才的な何かがあるというか。

高森:それはもう、別物です。奇跡的な柔らかさと高い技術があるうえに、パワーもあって人格者。僕が監督だったとしても、筒香を起用すると思います(笑)。

とはいえ、当時、僕もものすごく調子がよかったんです。前年にタイトルも獲ってますし。だから、なおさら試合に出られない状況が受け入れられない。当時は若かったですし、俯瞰して物事を見ることなんてできません。

やることと言ったら、自分がいかに不遇か、いかに環境が理不尽かという不満を言いまくることくらいでした。このモードに入っちゃうと、世の中で起こっていることすべてをマイナスに解釈してしまうのです。「あの人はオレのことが嫌いなんだ」とか、「オレへのあてつけなんじゃないか」とか。

楠木:あまりにも思いどおりにならないと環境を責めたくなる。どこか今の世相と似ているところがあるかもしれませんね。

高森:まったくそのとおりです。ところが、当時の本人からするとまったく気づきません。何せ、自分は「不遇である」と心から信じ切っていますから。

楠木:やっぱり、そういうときは自分がものすごく重要に思えちゃうってことなんですかね。自分にとっての大事が、世の中全体の大事であるべきだ!という考えになりやすい。

高森:そうです。オレだけがこんなにツライ思いをしている!という思考です。

楠木:そこから、やっぱり調子は落ちていったのですか?

高森:もう、絶不調ですよね。試合に出られないので、モチベーションが維持できない。練習しなくなる。下手になる。たまに試合に出ても、練習していないので打てない。もっと試合に出られない。負のループです。

楠木:やっぱり、プロでも一度その悪循環に入ってしまうと、なかなか抜け出せなくなるものですか?

高森:気持ちが切れてしまうとダメですね。「切れそう」「諦めそう」は、まだよいのです。切れてないので。そういうのは、後から補強できます。

ただ、1回「切れて」しまったら、もう終わりです。そこまで積み上げてきたものは、すべてなしです。また1から作り直さないといけない。今だから思うのは、切れかけてもよいのですが、切れてはダメだということです。

「環境」は自分でコントロールできない

楠木:今、改めて当時を振り返ってみると、どうですか? 筒香選手が入ってきたことによるいわば環境要因や、気持ちが切れたということを含めて、どのように整理していますか?

高森:コントロールできないことにとらわれて、自分を見失っていたな、というのが僕の見解です。筒香が入ってくることも、自分が試合に出られなくなることも、僕ではコントロールできないのです。試合に誰を使うかは、球団の方針や監督の判断です。

だから、実際、僕にはどうすることもできない。僕にできることは、淡々と自分の課題をクリアするべく日々の練習に一生懸命取り組み、与えられたチャンスに集中すること。主にこれだけでした。当時の僕が一生懸命やっていたことは、主に文句を言うことと不平不満を言うことだったので(笑)。