退屈な文章を「一生書き続ける人」に欠けた視点

「主観的発見」が自分の中にあるのとは対照的に、「客観的発見」は外の世界にあります。

先に例として挙げた「カメの卵は28℃以下の場合はオス、28~29℃の場合はオス・メス半々、30℃以上の場合はメスになる」というのは「客観的発見」です。読み手の知らない事実と言ってもいいですね。

事実の中に面白いものはいくらでもある

僕の書いたコピーだと、次のものがあります。

『言葉ダイエット』(宣伝会議)書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします。

●「人間だけが、時速900キロで熟睡できる。」(ANA 2018年)

このコピーは子ども達と一緒に読んだ『ツバメのたび─5000キロのかなたから─』(著:鈴木まもる)という絵本から着想を得ました。

絵本では「つめたい さむい とばされる でも いきたい いかなければ」と、はるか5000キロを乗りこえて日本にやってくるツバメの旅が描かれています。

比べると飛行機での移動は、おいしい食事があって、映画を観れて、ぐっすり眠れて、なんと幸せなのだろうと思ったのです。

「人間だけが、時速900キロで熟睡できる。」は、僕のひらめきでも何でもありません。ただの事実です。

世界を見渡せば、面白いものはいくらでも発見できるのです。

「客観的」と「主観的」、2種類の「発見」はどちらがより面白いというわけではありません。厳密に区別できないこともあります。次に挙げるのは、2種類を組み合わせた例です。

●「最初にわかったのは、「オランダ語は横に読む」ということ。
●「最近ありますか? 検索しないで、自分で気づいたこと。」
(「風雲児たち」 2018年)

「風雲児たち」ポスター 2018年(画像:『言葉ダイエット』より)

「風雲児たち」は1979年のシリーズ開始以来、現在も連載中の歴史大河マンガです。2018年のお正月に、杉田玄白や前野良沢らが西洋の医学書を翻訳し『解体新書』を出版した際のエピソードがドラマ化されました。ドラマに合わせて原作マンガを広告するために作ったのが、このポスターです。

大事なのは共感もできる「発見」

キャッチコピーの「最初にわかったのは、『オランダ語は横に読む』ということ。」は「客観的発見」です。実際に翻訳したときのエピソードから拾ってきています。

一方、「最近ありますか? 検索しないで、自分で気づいたこと。」は「主観的発見」です。「最初にわかったのは、『オランダ語は横に読む』ということ。」だけだと、歴史好きにしか届かないポスターになります。そこで誰でも共感できる「発見」を追加したのです。