退屈な文章を「一生書き続ける人」に欠けた視点

「主観的発見」とは、人の気持ちの中にある発見です。僕の手がけたコピーを例として挙げます。

●「父が涙もろいことは、テレビが教えてくれた。」

スカパー! 2018年のコピー(画像:『言葉ダイエット』より)

●「集中には、きっかけがいる。」

FRISK 2018年のコピー(画像:『言葉ダイエット』より)

どちらのコピーも「言われてみれば、確かにそうだな」と読み手に共感してもらうことを狙っています。心のどこかで思っていることを言い当てる、ということですね。僕はこれを、ちょっと難しい言葉で「潜在的感情の顕在化」と呼んでいます。

「主観的発見」は、基本的に「経験」の中から探します。直接経験したことはもちろん、友達に聞いた話などでもいいでしょう。上記のコピーを見ればわかるように、特別な経験である必要はありません。むしろ、いつもの毎日のほんのささいな瞬間を、一歩踏み込んで考えることが大切です。

例えば「子どもの頃、一緒にテレビを見ていたとき、父はよく涙ぐんでいた」というエピソードであれば、誰でも心当たりがあると思います。そこを一歩踏み込んで考えて「一緒にテレビを見なかったら、泣いているお父さんなんて目にする機会無かったかもな。父が涙もろいことは、テレビが教えてくれた、とも言えるな……」と「発見」に育てていけばいいのです。

それでは、どうやって「主観的発見」で文章を面白くするのか? エントリーシートの「学生時代に頑張ったこと」を例に見てゆきましょう。

私は学生時代、海外でのボランティア活動に力を入れました。力仕事が多かったのですが、子ども達の笑顔に元気をもらいました。この経験を通して、私は人の役に立つ喜びを学びました。

いかにも就職活動らしい文章ですが、「発見」が無いので読み手は退屈です。次のように書き換えてみましょう。

私は学生時代、海外でのボランティア活動に力を入れました。力仕事が多かったのですが、子ども達の笑顔に元気をもらいました。考えてみたら、それまで子どもの笑顔を直に見る機会なんて、ありませんでした。子どもの笑顔にこんな力があるのかと、本当に驚きました。日本に帰ってから電車で泣いている子どもを見ても、イライラしなくなったほどです。卒業した後も、子ども達の役に立つ仕事をしたくなり、貴社を志望いたしました。

一見、ありきたりなエピソードにも、深く考えれば「発見」があることがおわかりいただけたと思います。

「発見」の有無で企画書の印象も変わる

企画書も「発見」があると無いとでは、印象がまったく変わります。例えば、次の文章を読んでみてください。広告会社がスニーカーメーカーに、販促キャンペーンを提案している企画書です。

御社のスニーカーは10代の若者がターゲットです。入学シーズンは繁忙期なので、需要増が見込めます。若者の生活に合わせたメディアでコミュニケーションをすることが大切です。

強いて言えば3文目が「発見」ですが、後はすべて「前提の共有」であり、読み手が知っている内容です。こんなスライドが2、3枚続いたら、すっかり飽きてしまいます。そこで、次のように書き換えます。

御社のスニーカーは10代の若者がターゲットです。入学シーズンは繁忙期なので、需要増が見込めます。しかし、若者たち本人にとっては、繁忙期なんて関係ありません。青春を謳歌するうえで必要だからスニーカーを買うだけです。コミュニケーションにおいても、若者のリアルな生活に合わせたメディアを選ぶことが大切です。

提案するメディアプランの内容が同じでも、その前のスライドに「発見」があれば、より「面白く」感じると思います。

「前提の共有」も大切ですが、それに終わらず、「発見」を入れるように意識してみてください。