例えば、トランプの公式のソーシャルメディアに「統一帝国」という言葉が登場した。また、トランプは「政敵は寄生虫」「(不法移民は)わが国の血を汚している」と比喩を用いて彼らに攻撃を加えた。
上記のようなトランプが有権者に向けて発信した発言を考えてみると、ホワイトハウスでトランプを身近にいたケリーの証言は信憑性が高いと思われる。
さらに、ハリスとオバマは、トランプが「内なる敵」という言葉を使い、敵は海外よりも国内に存在すると強く認識していると指摘した。ハリスは他の選挙集会でも、トランプの「国内の敵」に関する発言を批判している。「敵」はウラジーミル・プーチンロシア大統領などの外国勢力ではなく、米国内にいる反トランプのジャーナリスト、20年米大統領選挙で不正がなかったと主張する選挙管理委員会のスタッフ、トランプを起訴した判事などを指し、彼らはトランプの「敵のリスト」に入っていると言うのだ。
ハリスによれば、トランプは民主主義に反する権威主義的、独裁主義的な性格を帯びている。ハリスの分析が正しいとすれば、トランプが大統領に返り咲いた場合、権力に対する監視が効かなくなり、民主主義は大きく後退し、米国は弱体化する。故に、ミシェル・オバマはトランプを大統領にしないためにも、戸別訪問を実施し、電話による支持要請を行い、投票所に出向いてハリスに投票をするように強く促しているのだ―ー”Do something”と。
選挙戦が最終盤に入り、ハリスはトランプの性格と大統領としての不適格さに焦点を当てた攻撃を本格化させている。この戦略は有効であろうか。
米国の専門家の中には、トランプの性格に対する攻撃は機能しないと断言する者がいる。確かに、2016年米大統領選挙では、ヒラリー・クリントン元国務長官がトランプの性格を主要な争点に据えて戦ったが、逆にクリントンは公務に関わるメールに私的なサーバーを使用していた、いわゆる「メール問題」と彼女の性格を絡めたトランプの反撃に直面し、効果を上げることができなかった。
しかし、それから8年間が経過した。現在では、誰もが「トランプ」を知っている。多数の民主党支持者、無党派層および一部の共和党支持者は、トランプの分断を激化させる過激な発言、不正行為並びに無数の嘘に拒否反応を示し、大統領としての適性に強い疑問を抱いてきた。前のトランプ政権でトランプの側近を務めたケリーなどの「良識派」は、トランプが大統領として「不適格」という立場をとっている。
16年米大統領選挙と比較すれば、ハリスのトランプの性格と不適格を突いた攻撃は、一定の効果を上げ、票の上積みにつながると考えるのが妥当だ。
10月26日、ハリスはミシェル・オバマと中西部ミシガン州での選挙集会に登場し、特に黒人女性に投票を促した。ハリス陣営は、女性票でトランプを大きく引き離したい考えだ。
ハリスは上記の選挙集会に加えて、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領ディック・チェイニー氏の娘リズ・チェイニー前下院議員と一緒に、ウィスコンシン州、ミシガン州およびノースカロライナ州で演説を行った。リズ・チェイニーは、米連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の副議長を務め、2022年米中間選挙で落選したが、今も反トランプを貫き、自分を「保守派」だと主張している。
ハリスとチェイニーの遊説は、共和党予備選挙でトランプと戦った元国連大使ニッキー・ヘイリー氏の支持者の票獲得を狙ったものと言える。ヘイリー支持者には人工妊娠中絶容認とウクライナへの軍事支援に賛成する者が多いからだ。