米CNNの出口調査によれば、2020年米大統領選挙で、ジョー・バイデン候補(当時)は黒人の87%、トランプは12%の票を獲得し、バイデンがトランプを75ポイントも上回った。ヒスパニック系ではこのパーセンテージは、バイデン65%、トランプ32%で33ポイントの差があった。
バイデンは、オバマ政権の副大統領として2期8年を務め、36年間の上院議員としてのキャリアを通じて得た知名度もハリスよりもはるかに高かった。その上、バイデンには男性であるという優位性が働いていたに違いない。
今回の大統領選挙では、世論調査で定評があるマリスト大学(東部ニューヨーク州)の全国世論調査(24年10月8~10日実施)によると、アフリカ系のハリス支持は75%、トランプ23%で52ポイント差である。バイデンと比較すると、ハリスのリードは23ポイントも低い。
ヒスパニック系に至っては、ハリス支持が54%、トランプ支持が45%で9ポイント差であった。こちらもバイデンと比べると、ハリスは24ポイント下回っている。
その理由は何か。経済やインフレが貧困層の多い黒人を直撃したという指摘があるが、加えて、黒人男性の黒人女性に対する支配の文化、蔑視や差別が根底に存在すると言われている。ハリスにとって人種内のジェンダーの問題が障壁となっているのだ。
ハリスが黒人男性票獲得で苦戦を強いられているのを知ったトランプは、選挙集会で「私は黒人男性が好きだ」と敢えて言い、黒人男性にアピールしている。また、「不法移民が黒人とヒスパニック系の人々の職を奪っている」とも訴えて、具体的なやり方を示さないまま、国内から大量の不法移民を強制送還させると約束した。
トランプの狙いは巧妙だ。合法的に市民権を得たヒスパニック系や米国で生まれたヒスパニック系の人々の利益を、不法に流入したヒスパニック系の人々が侵害しているとして、敵対心を植え付ける。その対立に、黒人も巻き込んで、敵対のレベルを一段高めて、「ハリスの移民政策の無能」の方向に導いている。
これに対して、ハリス陣営は選挙集会で、ミュージシャンのスティービー・ワンダー氏や映画監督のスパイク・リー氏など有名な黒人男性を全面に出して、彼らに支持を求めている。また、10月24日に開催された南部ジョージア州のハリス陣営の選挙集会では、黒人のラファエル・ワーノック上院議員(民主党・同州)が演説を行い、「私は多くの黒人男性がドナルド・トランプに投票するとは思わない」「私たちは彼がどのような人物か知っている」「トランプは黒人の大統領(オバマ)が米国で生まれていないと言っていた」と述べて、ハリスかトランプかで揺れ動く黒人男性を引き戻そうとした。そして、トランプは米国を後退させ、ハリスは前進させると語気を強めて2人を比較した。
さらに、同選挙集会では、ハリスは初めてバラク・オバマ元大統領と一緒に舞台に上がり、黒人男性に投票を呼び掛けた。その際、オバマは演説の中で黒人男性に多い黒人女性に対する性差別を非難せずに、トランプの性格に焦点を当てた。
中でも注目に値するのが、オバマは、トランプの元大統領首席補佐官で海兵隊大将であったジョン・ケリー氏の発言を取り上げたことであった。オバマは、ケリーが米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューの中で、トランプが「ヒトラーは良いこともした」と繰り返し称賛していたと明かしたことを聴衆に伝えた。ハリスも、ケリーが述べたトランプのヒトラーに関する発言に言及して、トランプを非難した。
筆者は歴史学者ではないが、異文化間コミュニケーション論を学んできた者として、トランプが今回の選挙期間中に、アドルフ・ヒトラーを想起させる言葉を幾度か使用してきたことを確認している。