健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

酒飲みはボケやすい? 高齢者はお酒とどう付き合うべきか

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お酒は百薬の長? それとも毒?

古くから「百薬の長」とも言われてきたお酒。からだに良いという意見がある一方で、からだに悪いだけで「百害あって一利なし」という意見もあります。

では結局のところ、幸せな老後を迎えるためには、お酒とどう付き合うのが正解のなのでしょうか。年をとっても、少しくらいなら飲んでも良いのでしょうか。きっぱりやめたほうが良いのでしょうか。

お酒がなければ人生がつまらない。そのように考える人もいます。
そこまでではないにしても、お酒によって気分が良くなったり、人間関係が円滑になったりするので、お酒に対して良い印象を持っている方は多いでしょう。飲みすぎは良くないけれど多少なら良い、そう思っている方が大多数ではないでしょうか。

とはいえ、厳密に言えば、アルコールというのは、からだにとって異物でしかありません。
そのため、分解・排出するために、進化の過程で分解酵素を生み出す仕組みが人体の中でできあがってきたのです。それが、アルコールデヒドロゲナーゼという酵素です。
少し専門的な話になりますが、この酵素がアルコールを分解し、その過程で二日酔いの原因であるアセトアルデヒドを生じさせます。それをさらに分解するのが、ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)という酵素です。

これらの酵素の働きが弱い、もしくはない人がいます。こうした人は、アルコールを速やかに分解できません。
また、年齢とともにアルコールの分解機能は低下します。年とともに飲めなくなってしまうのが普通なのです。

以前は、適量のお酒を飲むことは、まったく飲まないよりからだにいいと言われていました。
ですが、これはあくまで酒が飲める人というのが前提でしょう。
酒が飲めない人、いわゆるアルコールを分解する酵素を持っていない人、年齢によって弱まってしまった人にとっては、アルコールはからだにとってはやはり異物であり、毒なのです。

さらに最新の研究では、「アルコールの摂取量に適量はない」という研究結果が出ています。
つまり、飲める人にとっても、健康に利するような適量は存在せず、酒の量はわずかであっても、病気になるリスクが上がっていくということです。

お酒と健康の関係は難しい

その一方で、「1日ビール中瓶1本、日本酒1合くらい飲む人は、まったく飲まない人より認知症発症が下がる」という報告があります。

しかし、こういった飲酒の疫学データは、本人へのアンケート調査であるため、正確なデータを取るのが難しいように思います。
きちんと毎日飲む酒の量を量ることはほぼ不可能ですから、信頼度は低いと考えたほうが良いかもしれません。

それに加えて、適量のアルコールの摂取が、認知症の予防以外にも、様々な病気のリスクを下げるという報告もあります。

ですが、このような特定の業界や会社に利するデータの場合、それを商売にしているメーカーの思惑が影響していることがあるものです。
そういった意味から考えても、飲酒と健康に関するデータを見る際は慎重になったほうが良いかもしれません。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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