人事というのは、組織づくりに携われるスケールの大きな仕事です。組織づくりは大きな会社では主に経営企画部門の仕事ですが、社内の人の流れをつかさどるのは人事です。
採用・入社・配属(働く部署と仕事を決める)、異動(部署や仕事の変更など)・任免(責任あるポジションに任命する、あるいは外す)・休職(一定期間労務の提供を免除する)・復職(休職後に仕事に復帰する)、退職(会社を辞める)といった、社員の入社から退職までの流れ(人材フロー)をつかさどります。
「つかさどる」というのは、これらの人材フローの決定を必ずしも人事部門が行うわけではなく、「仕切る」ことを意味しています。いつまでにどのような決定をしなければならないかを決め、その期日に向かって、決定権者に決めてもらうよう働きかけることです。その意思決定のために必要な情報を提供し、その決定によるほかへの影響も伝えます。
たとえば、誰かが異動すれば、その補充人員を別の部署から持ってこなければならないかもしれません。誰かの採用を決定すれば、ほかの誰かを採用できないかもしれません。誰かの職位を外せば、モチベーションを下げ、周囲に悪影響をおよぼすかもしれません。そうしたリスクも踏まえた上で、人事異動案を策定し、決定者に決めてもらうのです。
決定権者とは、対象者の「人事権」を持つ人です。通常、人事権は直属の上司にあるとされていますが、その上司の人事権はそのまた上司にあるわけで、人事担当者が働き掛けるのは、本部長や部長といった人たちになります。あるいは最高位の人事権者は経営者ですから、経営者とのやりとりも必要です。誰がどのように「人事(採用や配置異動・任免など)」を決定するのかも、あらかじめ決めておかなければいけません。
このような人事フローのことを、狭義で「人事」と呼ぶこともあります。「4月の人事では…」といえば、4月に誰がどこに異動・配置となるかといったことを意味します。
4月に人事を行う場合、半年くらい前から自己申告による異動希望を募ったり、経営者や経理が策定する予算づくりに携わったり、人員計画(どこの部署に、どのような人材が、どれだけ必要なのかを決定すること)がないと予算をつくれないので、その策定にも携わったりします。そして2月には組織と、そこに配置する責任者を決めてもらって、その責任者と人事異動の交渉をしていきます。
これらの(狭義の)人事は、その時点だけのものではなく、中長期的な戦略に基づき、求める人物像を設定した上で、採用・育成・配置方針を決め、これらに基づく人員計画を策定し、これが採用計画、人事異動計画、育成計画の策定につながっていきます。
人事異動を決めるのは現場の管理職ですが、人事部門も人事異動案をつくります。管理職は基本的に今年と来年のことで頭がいっぱいです。新卒を採ったとしても、その人が30歳のときにどうしているのか、40歳のときにどうしているのか、先のことまでは意外と誰も考えていなかったりします。長期的に物事を見ているのは、ひょっとすると社内で唯一、人事だけかもしれません。だからこそ人事担当者は、長期的に物事を考える視点が重要になります。
採用の先には、その人の人生があります。配置の先には、その人のキャリアがあります。人を採ったら「はい終わり」ではないのです。会社で働く人は、その先に何を目指しているのか、次に向けて今その場が意味のあるものになっているのか。「どうしたいの?」「将来はどうなりたいの?」と問いかけ、常に考えてもらい、それらを異動や配属に反映させていくのです。