社員成長の決め手は、人事が9割

人事の超プロが明かす「人事」という仕事の楽しみ方

2024.07.10 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第28回

最大限楽しんで業務を全うするために、目標を持って取り組む

人事という仕事を最大限に楽しんで業務を全うするためには、目標を持って取り組むことが大事です。目標にすべきは、社員がいきいきと働き、成果も出してもらい、会社の業績を高めること。では、人事担当者はそのために何ができるのでしょうか?

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まずは業績を伸ばす人を採用し、人が育つ仕組みをつくることです。キャリアステップを明確にし、評価制度を導入して、現場に育ててもらい、お客様に価値を提供できるようになっていただく。そうすれば会社の業績も伸び、みんなが幸せになれます。

会社の業績は伸びても、社員が幸せになれなかったら意味がありません。社員が幸せに働くためには、会社と社員が同じ目的を持って仕事をしていってもらうことが大切です。会社と社員のベクトルを合わせることが、人事の重要な役割になります。

もう1つは、会社の中はもちろんですが、世の中に通用する力を身につけて、辞めたいときに辞められる状態にしてあげること。「どこにも行けない人材がうちにいる」ではなく、「どこにでも行ける人材がうちにいる」という状態が理想です。
その状態になれば、優秀な社員ほど辞めません。他にいく必要がありませんから。

新卒だったら30歳前後までに外に行ける人材に育てる。中途だったら自社にいて何年かキャリアを積めば外に行けるような人材に育てる。入社してくれた人が転職してしまうのは残念ですが、人を育てるとは、そういうことだと私は考えています。

「辞めてもどこにでも行ける」と思えることほど、社会人として幸せで安心できることはないのではないでしょうか。会社の業績を伸ばすために、人を育てる仕組みをつくり、その運用を頑張る。社員はキャリアステップで成長し、世の中で通用する人材にしていく。人事部時代もコンサルになった今も、私は常にそれを目標にしています。

どうしたら会社が良くなるのか、社員が幸せになれるのか

社員が働くことに喜びを持ってくれて、やったことでちょっとでも評価されて報われる。私は新卒1年目から、そうした環境づくりに取り組んでいました。上司に「現場を回れ」と言われていたので、現場を歩き回って管理職に話を聞いたり、何か問題が起こっていたら、解決できるよう努力したりもしていました。

ほとんどの問題は最終的には何とかなりましたが、その過程は結構しんどかったです。社内の課題解決に取り組んでも「人事はどうせヒトゴトだよね」と言われて「だから人事(ヒトゴト)って書きますよね」とやりあったりしたこともありました。

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転職先の会社でコンピテンシー(成果を上げるために欠かせない行動)による評価制度を導入すると、現場からは「コンピテンシーでめしが食えるのかよ」といった反発もありました。「俺の評価は下げてもいいから、部下の評価を上げてくれ」と管理職に懇願されて「いやいや、そういうことじゃないでしょう」と、人事評価の意味を浸透させていくことに苦労したりもしました。

特に大変だったのは、人事異動です。新卒から4〜5年間も同じ職場で同じ仕事だけをしている社員は、他部署で通用しなくなってしまう場合があります。どこかで異動を働きかけないと、「そこでしか通用しない人材」になってしまいます。しかし異動させたくても、そこで経験を積んだ社員を現場は離したがりません。現場の抵抗が強く、そうした葛藤で苦しむことは多かったです。

人事異動を実現するのは、本人の申告が何よりのよりどころになります。自己申告制度を導入すれば、「本人が異動したいと言っています」と上司を説得することができます。また「同じ仕事を3年間して異動を希望する人は優先的に実現させる」といったルールをつくることも有効です。少しずつでも社員の希望を叶えていけば、社内の雰囲気が変わり、会社も人事も信頼されるようになります。どうしたら会社がもっと良くなり、社員が幸せになれるのか。その仕組みを考えることも人事の仕事ですね。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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