cueのププププレゼン力

第12回 2016.09.28

TRY! 新しい幕を開けました♥LOVE舞台

作品の一部になりたい♥

一方、舞台美術は……あの個性的な空間をどうしたいのか、ノゾエさんにイメージを聞きつつアイデアを膨らませ、たくさんのデザインを提案しました。脚本には、「運命」や「糸」というワードが何度も登場するので、糸で空間を覆ったり、糸を巻いたり、散りばめたり。それらのアイデアが糸口となって、ノゾエさんの中で舞台イメージが深まっていったようでした。
この「糸」、のちに空間演出以外でも重要なモチーフとなり、役者の台詞や動きの随所で使われることに。一貫性のある、コンセプチュアルで素敵な演出だと思います。

「何となく」という曖昧さが、僕はあまり好きではありません。例えば何かをクリエイションする場合、「それはどういう意味で、どうしたいのか?」といった要素をきちんと理解したうえで制作に臨みたいし、創りたいし、着せたい。いつもそう考えています。
今回稽古場に足しげく通ったのも、「こういう動きだから、こんな衣装が映える。この衣装なら、背景の色はああして……」と、すべてが1つになった作品となってほしいという思いからでした。
僕はクリエイターとして、ノゾエさんの作品の一部分を創るのが任務だと考えていました。もちろんリクエストに対するアイデアを出したり、意見を言ったりはしますが、そこに僕のエゴが入る余地はありません。作品の創造者は、あくまでノゾエさんなのです。そんな心構えで、ビジュアリストとしてベストを尽くすつもりで臨んでいました。

涙。

8月、真夏の稽古は続いています。
衣装はどんどん形になり、美術プランもブラッシュアップを重ねて、本番まで1日、1日と近づいてきました。
日に日に舞台監督、音響、照明などなど、制作スタッフが増えていきます。皆で1つになって舞台を創っていく感じが増していきます。興奮。

そんな中、ついに脚本が完成。美術も衣装も着ない「通し稽古」を観て、僕は感極まって泣いてしまいました。稽古場を初めて訪れた日に手渡された脚本が変化を続け、最終的に1つの形となったSTORY。これを間近で目にしたこのときが、僕にとってのまさに“初演”だったのです。
観劇を終えた僕は思いました。「あ、面白い。あ、素敵だ。」

舞台は生きている

8月22日。イマジンスタジオ、小屋入り(公演の数日前に劇場入りすること)の日です。
未完成のものを含め、衣装をすべて楽屋に搬入され、美術の一部はセッティングが始まりました。その様子を見て、「あ~、皆で創っているな」という実感がさらに湧いてきます。興奮興奮。

さて、スタジオに入ってからの稽古がまた凄かった。どんどん作品が形となり、急ピッチで完成に近づいていくのを目の当たりにしました。空間の幅や奥行きまで考えながら役者の動きを直し、様々な音をチョイスして、ライティングのトライを細かく指摘するノゾエさん……まるでオーケストラのコンダクターのようです。

セッティングが完了した美術も、当日の公演直前までフレシキブルに、さらにいい方向へとチェンジしていきました。まさにLIVE。面白い。演出も変わる、変わる、変わって生きます。
さぁ明日。いよいよ、公演初日の幕が上がる。

客観視なんてできない!!!

8月27日。
僕の席は用意されていました。後ろには、たくさんの友人知人が見に来てくれています。純粋にお客としてなんて観られません。ドキドキ&心配が先立ってしまいます。衣装のスカートの糸は切れないか、足に糸は絡まらないか、早替えはうまくいくか、などなど。客観視なんて全然できない。稽古の日々の記憶を消して、脚本を忘れ、純粋にゼロから観たいと思いました。
「この作品は、果たして面白いのかどうなのか・か・か・?」

そして――。
舞台が終わり、くるっと後ろを振り返ると、友人たちが口々に言いました。
「面白かった」
「うるうるした」
それを聞いて、ホッとひと安心。よかった。よかった。よかった♥

9月1日。
公演の折り返しに当たるこの日に再度観覧すると、当初と演出が変わっていて、前回以上によくなっていました。1日として同じということはなく、日々、変わっていくのが舞台。さらに面白くなって生きています。

ご感想はこちら

プロフィール

成田 久
成田 久

アートディレクター・アーティスト。1970年生まれ。多摩美術大学・東京藝術大学大学院修了し、1999年に資生堂入社。宣伝・デザイン部に所属。アネッサのCMで蛯原友里を起用し、楽曲にBONNIE PINK「A Perfect Sky」を使用したことで一躍話題に。そのほかマシェリやマキアージュ、ベネフィーク、HAKU、インテグレート、unoなど多彩なブランドのアートディレクションを担当。更にTSUBAKIで初めて男性キャストとして福山雅治を起用するなど、資生堂商品のブランディングに大きく貢献する。
社外活動では13年NHK大河ドラマ「八重の桜」のイメージポスターのアートディレクションを担当するほか、多数のアーティストのCDジャケットやMVのアートディレクション等を手掛ける。更に雑誌「装苑」にて演劇レビューを連載するなど活動範囲は留まるところを知らない。

出版をご希望の方へ

公式連載