クリエイションするにあたり、わからないことをまとめてノゾエさんにお伝えすることにしました。僕はこう見えて用意周到な性格で、詰めて詰めて完成度を上げていくタイプ。スケジュールギリギリで焦って納得できない仕事をする、ということが大嫌いなのです。
そこで、「引き受けることになったけど、これからどうしたらいいのか? どんなスタンスでいればいいのか?」と聞いてみたところ、ノゾエさんからは「まだ待っていてください」とシンプルなご回答が。
うん、もちろん待ちますが……僕は魔法使いではないから、スケジュール感や予算などもきちんと把握したいのです。何せ舞台のクリエイションは初めてだし、納得のいくクリエイションをしたいし、何より舞台を成功させたいし、と気持ちは焦っていくばかり。
それでも「待っていてください」とのお返事。待つ、待つ、待つよ~。それはいいのだけど、いったいいつまで待てばいいのだろう? もう早く創りたくてたまらないのです……。
自分の中であらかじめ制作時間を確保していたので、何だか気持ちが落ち着きません。とはいえ、キャストたちをパンツ一丁で舞台に上がらせるわけにもいかないので、ひとまずパンツ制作からスタート。もちろん作品や個々の役柄に合わないようならボツになっても構いません。それでも、創りたいのです!
そんなふうに制作熱は高まる一方で、僕の頭と♥が舞台モードへと突入していく6月でありました。
7月21日。
この日は、待ちに待った舞台稽古の初日。開始は夕方だったので、勤め先での仕事の後、少し遅れて駆けつけることに。今回衣装と美術のクリエイションを引き受けたときから、稽古場に通おうと決めていました。
というのも、稽古場に行けば脚本だけではわからない役者の雰囲気や動き、そして演出をその場で見ることができるから。それらをダイレクトに目にし、肌で感じながら、美術・衣装のアイデアを練りたいと考えていたのです。
役者さんの稽古を間近で見るのはもちろん初めての体験。ノゾエさんがどのようにしてはえぎわの舞台を創り上げていくのか、興味津々でした。
皆さんより遅れて現場に着くと、ちょうど男女2人の役者が、エチュード(即興劇)的なシーンを演じているところでした。やがて2人の稽古が終わり、今度は同じシーンを別の2人が演じ始めます。それも終わると、次は男優が女性役になり、女優が男性役を……とどんどんやり方を変えていく。
同じ役でも、役者によってこうも印象が変わるのか! きっとノゾエさんはこんなふうにして、どの役者に何をさせるのがベストかを考えているのだと思いました。
その光景を眺めながら、僕は人物像を勝手に考えて「この人にはこんな色や形が似合うな」とスケッチしていったのです。
こうして仕事帰りに稽古場に顔を出す日々が続き、毎日少しずつSTORYを渡され、人物像のイメージを膨らませていきます。誰が何役を演じるか、その配役も日々変わるという斬新な演出の中、当然僕のスケッチもその場その場で変化し、そして増えていきました。
「日ごと変化し、進化していく台本が、どんなものに、どんな主題になっていくのだろう?」
そんな思いを胸に、ワクワクしながら稽古場へと通う日々。役者にその場で演じてもらい、次の日には新しい話が追加され、またそれを演じてもらって動きを見ながらSTORYを創造していく様子は本当に新鮮。まるで三次元のエスキース(デザインにおけるスケッチ)を目の当たりにしているようでした。
ということで、すべては「やりながら」というスタイル。もちろん衣装制作もそのスタイルで進めていきました。ノゾエさんの思考を制限しないように、僕がオリジナルで作ったコスチュームから、僕の私物&役者の私物&その他探してきたもの……などをまるごと床一面にどーんと広げて、一人ひとりの役柄をイメージしながらコーディネートします。それこそ頭のてっぺんから爪先まで。
「やりながら」創っていくこの手法、LIVE感があってとても面白い! でもこれって、かなりのセンスと的確なジャッジ力が必要だと痛感しました。役の意味をきちんと考慮しつつ創っていくわけですが、ほぼ固まった役もあれば、まだまだそうでない役もある。そのため日々集中して見ながら、やりながら、ということになるのです。
そうして考えた僕のスタイリングを見て、ノゾエさんは役柄のイメージをさらに創り込み、膨らませていったように思います。まさにアイデアのキャッチボール。
こんなふうに進んでいくため、脚本も日ごと変わります。前日にあった役が次の日には消えていたり、新たにプラスされたりと、本当に変化の毎日。もう驚きません。楽しみます。
このような環境ですから、衣装イメージの変更リクエストもバンバン寄せられました。でも、へこたれませ~ん。だって「BESTを尽くしたい! 役者の皆さんに素敵な衣装を着てほしい♥」という思い100%でしたから。