そして今回、『其処馬鹿と泣く』。さてどうしようか、と思っていたところ、ノゾエさんから1つ注文を出されました。いわく、「今回はキャスト全員をビジュアルに出してほしい」とのこと。意外でした。今まで、ノゾエさんはキャストを出すことに抵抗があるのかなと思っていたので。
今回のキャストは11人。「これは面白い絵になる!」と直感しました。僕が携わる日々のクリエイションでは、1名のモデルをどうキャッチーにビジュアルクリエイションするかを考えることが多かったので、11人という大人数、それもモデルではなく役者というキャストはとても新鮮だったのです。
僕はこのビジュアルを「一発撮り」で創りたいと思いました。そしてたくさんのシチュエーションアイデアを考え、最終的に決まったのが、「陽の当たる日常的な風景の中で、なぜか11人が横一列にギュッと体を密着させて並ぶ」という不思議なワンシーン。
迎えた撮影当日――役者それぞれの雰囲気や体型、洋服、男女のバランスをその場で考え、指示に従って並んでもらいました。それにしても、さすが個性派・実力派の役者陣。撮影は非常にスムーズに進行し、密着して一列に並ぶだけなのに、絶妙な表情やポーズがいっぱい出てきます。こうして終始高いテンションのまま、シューティングは無事終了しました。
フライヤーのクリエイションにおいて僕が大切にしていることは、もちろんまず「ビジュアル」です。そしてもう1つは、「情報を的確に伝える」こと。だから舞台タイトルは“ド直球”でセンスよく大きく入れるし、一見して読めないような文字は絶対に使いません。作品タイトルはすごく重要なのだから、言葉の意味をよく考えて、1番大切に、丁寧に形にするようにしているのです。
また、舞台に関する情報は、読みやすさを追求しつつなるべく多く載せるようにしています。サービスしなきゃですもの。今回のフライヤーでは、裏面に役者11名のアザーカットを起用。一人ひとりの名前も、お洒落に大きく入れました。とても満足のいく仕上がりになったと思います。
はえぎわ公演の幕が下りた後は、いつも打ち上げに参加させていただいています。舞台という場でリアルに「時」を創っている役者の皆さんとお話しするのは、とても楽しく、そして刺激的! そんなわけでいつも話に力が入ってしまうわけですが、皆さん親切に相手をしてくださいます。僕の性格も、回を重ねるごとに知られていく……。
こうした打ち上げの席では「こんなことしてみたい! やってみたい!」と勝手な妄想プランをご提案しています。
「ノゾエさんの脚本や演出が大好き♥なので、僕、衣装と美術をクリエイションしますから、お話を書いてほしいなー」とかとかとか。
とは言え、はえぎわ作品が好きだからこそ、その中に土足で入って行くのは絶対に嫌でした。それに、はえぎわはノゾエさんと役者の皆さんが一緒に創り上げてきたものだから、むやみに割り込んではいけないとも思っていました。
だ~け~ど~、「この人達に、こんな色・こんなデザインの中に立ってほしい!」という熱い思いは止められない。だから打ち上げでは毎回、自分の気持ちを素直に伝えることにしていたのです。
学生の頃からテキスタイルを学び、「装うクリエイションビジュアル」を仕事にし、コスチュームアート作品を創って発表してきた自分……そんな自分の中で、「はえぎわの皆さんと何かやってみたい熱」が、ふつふつと高まってきていました。
「あの役者さんに、こんなヘアスタイルで、あんな衣装を着せてみたいな~」という、勝手な妄想クリエイションプランがどんどん進行。まさに自分勝手に。
そのため今回、通常の劇場ではなく「イマジンスタジオ」という個性的で面白い空間での舞台美術と衣装をクリエイションしてほしい♥と言われたときは、期待と不安が同時に押し寄せてきました。
「やりたい! やりたい! やりたい!」VS「できるのか? 大丈夫なのか? 成功させられるの?」
そんな興奮の嵐が脳内に吹き荒れてしまい、思わず「ちょっと考えさせてください」。即答できませんでした。
その日の帰り道。高まる気持ち、ぐるぐる回る頭の中、舞台ってどう創るのだろう……はっきり言ってわからないことだらけ。でもでも! 大好きなはえぎわのクリエイションができるなんて、何というHAPPY HAPPY HAPPY! 思えば今まで足を踏み入れたことのない、キラッキラな舞台の世界です。
「もー、2016年夏はこれに懸ける!」
そんな思いを胸に抱きながら、スケジュール張を開いて予定を確認しつつ帰路を行く。家に着く頃には、気持ちは固まっていました。そしてノゾエさんにお伝えしたのです。
「お引き受けいたします。よろしくお願いいたします」
ということで後日、ニッポン放送の地下にあるイマジンスタジオへ見学に行くことに。ここは公開収録時をメインに使用される場所だそうです。そのため演台や客席は常設されておらず、特徴的な白と黒のストライプの壁に板張りの床、隣接するロビーと音響ルームが大きなガラス越しに見えるという、面白い空間でした。
いわば何もないところから、観客の視点を決め、演台を用意し、舞台を創っていく……そのような流れでノゾエさんと意見交換するのは、とても楽しいものでした。スタジオにはドアが空間の前後に4つずつあり、これをフル活用すれば文字どおり四方八方から役者が登場できて、空間が立体的になって面白いはず。そんな空間でノゾエさんがどのように演出をするのか、非常に楽しみです。そもそもこの場所を選んだこと自体がすでに演出である、と感じた3月でした。