悲喜劇小説一覧
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『記憶力』
キラキラが目に痛いから、
逃れるように眠ろうとしたのですが、
まぶたがないのを忘れていました。
水面を見上げると、
醜い犬がのぞいていました。
ついでにさざ波がおさまり、
醜くなくなりました。
肺呼吸がうらやましいなと思い、
やわらかな毛もいいなと羨みました。
肌がうろこで硬い。
歯も舌もなくて味がしない。
セックスができない。
たくさん愚痴が思い浮かんだけど、
気づいたら皿にのり、
身体が刺身にされていました。
ぼくはまだ生きています。
楽しそうな誰かと誰かの声のなかで、
ぼくはしずかに目を閉じようとして、
まぶたがなかったのを思い出しました。
文字数 92
最終更新日 2022.07.09
登録日 2021.04.13
ぼくはついてない。
彼女にふられ、職場もクビになった。
貯金は底をつき、
そのうち家賃も払えなくなった。
マンションの管理会社に出ていくよう勧告され、
引っ越しの準備をした。
いよいよ宿無しか。
と、人生の終わりのような気分で部屋を出ると、
隣室に越して来た母子と鉢合わせた。
それがぼくの人生を変える出会いとも知らず、
二人に頼まれるままに引っ越しを手伝い、
『お礼に』と、夕食に招かれた。
娘は細身だが背が高く、180センチほどもある。
母親は小柄なので、
父親似なのかもしれない。
ぼくは、それを二人に訊いてみた。
後から考えると、
あれは、よけいな質問だったなと思う。
でもそのときは、酒が入ってたんだ。
娘はぼくに言った。
『パパは悪魔なの。下級だけど』と。
文字数 93
最終更新日 2022.07.09
登録日 2020.10.24
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